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あっちこっちシアターインフォ(八戸情報誌 amuse 2013年1月号)

文:岩淵久美子/パーカッションプレイヤー

ダンス公演「DANCE×JAZZ vol.2」での「にのいち NINO-ICHI」を振り返る

誌面表示  11月中旬、南郷アートプロジェクトの一環で、ジャズとダンスとで作られる3つの作品が上演されるダンス公演「DANCE×JAZZ vol.2」が南郷文化ホールで開催された。私はソロのパーカッションプレイヤーとして、地元のダンスカンパニー、豊島重之氏率いるモレキュラーシアターと、作品を制作した。
 上演作品「にのいちNINO-ICHI」のテーマは、南郷・島守の龍興山。演出の豊島さんがこの山を訪れ思いを馳せ作り上げた世界。出羽三山から北上山系を峰越えしてきた山伏修験者…女性である隠れ修験者「にのいち」。黒田喜夫の詩、戦争や空爆の火を思わせる赤い点滅、生と隠されたものの悲しみと、その向こう側にある希望と解放…一つ一つのモチーフは、豊島哲学・美学によって複雑な背景と意味が結ばれている。
 私が龍興山を訪れた時、山頂の木々の落葉はすっかり終わり、隠れ里・コモリク島守の里の景色は以前にも増してあらわになっていた。
 飢餓、圧殺、一揆、戦乱、革命…
 はるか長き時の中でここに立ち、様々な思いを胸に里を眺めた先人達は数え切れないほどいるのだろう。ダンサーが舞台の中央にすくっと立ち、神も仏もあるものかとばかりに天を睨みつけているシーンが浮かんでくる。
 山頂の木々。もがきつつもそれでも前へ、天へ、何かを掴もうとばかりにうねりながら伸びゆく枝々が、ダンスの動きと重なる。
 モレキュラーの公演は、舞台に上る者も照明音響等の裏方も、全員が舞台のすぐ下に、舞台を見守る形で配置されるとのことで、今回は私もそのルールにのっとって舞台と向かい合わせ、お客さんに背を向ける形で陣をとった。作品制作中に龍興山を訪れたこととこの配置が、今回の音作りのヒントになった。
 舞台が始まり、真っ暗になって黒田の詩が流れると、私の場所はあの龍興山の山頂になる。長い時を、この動乱の世を何も言わず見守り続けたあの山そのもの。水湧き流れ、時には激しく吹き付ける風、呼吸し躍動する大地、あまねく照す暖かな日の光…そうやって全ての命が繋がれていくのをこの山はずっと見守ってきたのだ…そう思った。母なる大地、山の神は本当に女性なのかもしれないなあ。
 コラボレーションとは何ぞやと自分への問いに出した答え…これが私にとっての「にのいち」でした。
 公演中楽屋でご一緒したSさんが、人は必ず意味や答えを求めたがるけれども…という話をしてくれた。モチーフそれ自体は意味を持たないのだと私も思う。それをどう捉えるか、それを通じて何を見るかは他でもない自分自身にゆだねられているというのが3作品全てに共通していてとても面白いなと思った。


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