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アミューズ(地元雑誌)9月号掲載原稿

文:安達良春(八戸・創造集団パノラマ屋お頭)

「1+1=?」

 初めて独り芝居を観たのはイッ
セー尾形のビデオだった。面白か
った。こんな世界もあったのか、
と驚いた。もともとものを作るこ
とが好きだったこともあり、思わ
ず自分でも脚本を書いてみた。そ
れが始まりだった。気がついたら
7年が過ぎている。
 いろいろな事があった。いろい
ろな事をやった。たくさんの人、
劇団に接し、一緒に舞台に立った。
その中でひとつ賢くなったのは、
自分には人を引っ張っていく力が
ないと解ったことだ。生まれてか
ら20年以上かけてやっとそのこと
に気づいた自分にとって、独り芝
居をつくるという作業は、凄く居
心地のいいものだった。
 そしてまた月日が過ぎ、今度は
自分の無力さに気づいた。
「人を引っ張っていく力がない」
「才能がない」
これはしんどい。かなり辛い。
自分が作ってきたものにプライド
はある。面白いものを作ってきた
と思っている。でもそれは「力」
とイコールではない。それでも私
は芝居をやめようとは思わなかっ
た。下手の横好きか、未完の大器
か、どちらかは解らないが、とに
かく今も続けている。うーん、道
楽と言うべきか、性分と言うべき
か...
 敬愛する船木誠勝という格闘家
が引退した。知っている方も多い
と思うが、ヒクソン・グレイシー
と闘い、敗れての事だった。引退
を発表した席で、船木選手は「格
闘技に答えはありませんでした。
永遠に闘い続けることのみです」
と語った。格闘技に答えを見つけ
ようとした者がたどり着いた答え。
それは不毛でさえあった。
 私も最後には「演劇に答えはあ
りませんでした。永遠に作り続け
ることのみです」と言うんだろう
なぁ。十年前「演劇とはなにか」
という舞台をつくった人たちは今
どんなことを考えているのだろう
か。

 そして、今。
 一人で芝居を作っていくことに
限界を感じてしまった私は、人を
まきこむことにした。たくさんの
人とやる自信はないのでとりあえ
ずあと一人。このへんの判断がい
かにも自分らしくて笑ってしまう
のだが、とにかくこうしてプラス
ワンシアターは始まった。私にとっ
てプラス1になるだけでなく、相
手にも観客にもプラス1になれば
と思って取り組んでいる。そして、
来場して下さった方の感情に小さ
くても波紋をおこせますように...。
 集団に拘ることなく(実は集団を
維持していく力がないだけなのだ
が...)、作品を見つめ、相手を見
つめて舞台をつくっていくのは私
にとってひとつの理想でもある。
これまで協力者にも恵まれ、公演
を重ね今月で5回目になる。十人
十色の共演者と毎回相談しながら
舞台をつくっていくのは楽しい。
新鮮でさえある。
 そう考えると、やっぱり道楽なん
だろうなぁ。うん、真剣な道楽。

 毎月第三金曜日のFANSはプラス
ワンシアターでご来場をお待ちして
おります。真剣な道楽と、取り合わ
せの妙をお楽しみ下さい。


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