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あっちこっちシアターインフォ(八戸情報誌 amuse 2018年05月号)

文:田中哲(八戸学院大学地域経営学部教授)

ファイト・普通・方言

誌面表示  劇評なるものをしたためることとなった。商売柄(?)、書評は経験があるが、劇評ははじめてである。今回の評価の対象は、第6回はちのへ演劇祭(3月17日14時30分開始の回)である。
 まず、観劇環境についてである。劇場内に数々のポスターが張り巡らされていた。ユニークである。舞台も「劇間劇」を含めると4カ所となるものも初体験。「劇間劇」のひとつ、中島みゆきの「ファイト!」を舞踏で表現した「可愛い子には旅をさせよ」は秀逸であった。「ストレス」はストレスフルな現代社会をコミカルに描いていた。
[コンプレックス]
 この演目は、イベント会社の一室で繰り広げられる出来事とそこの社員が集うスナックを舞台に、「誰もが抱える何らかのコンプレックスをコミカルに」(パンフレットによる)描いた「普通の芝居」(同)である。この場合のコンプレックスは、「学歴格差」であると推測される。この国では青年期の(大学まで含めると)16年間を過ごす「学校」というシステムの中で偏差値という数値で序列が形成され、それが就職後も会社内で引き継がれていく。そこでの「やるせなさ」を「普通に」描くという「想い」を読み取ることができた。
[コレクション]
 この演目は、慰安旅行で訪れた南の島で聞いたお宝の噂をめぐって、1人の上司と2人の部下、そしてお宝の持ち主である「王」によって展開される「アドベンチャーもの」である。この芝居に込められた「想い」は、何であったのだろうと、観劇後考え込んでしまった。絞り出した結果、浮かび上がったキーワードは「欲」であった。日常ありがちな、「もし宝くじで10億円当たったらどうしよう」と妄想する自分が舞台上にいた。
[面接室]
 2人の八戸学院大学演劇部員が演じた舞台である。手前みそで申し訳ないが、今回の観劇でいちばん感激した舞台であった。
 ある会社の面接室で話が展開する。津軽出身の面接官と男子学生によって繰り広げられるテンポの良いやり取りは秀逸であった。特に、面接官役の長谷川華さんの成長の可能性を見出すことができた。
 話の展開も起承転結が明瞭であり、「落とし」(当該学生が、親会社に内定していることが判明)も絶妙である。
 もうひとつ、「方言芝居」の可能性と発展性を感じることができたのは、評者にとって収穫であった。津軽弁や南部弁などの方言で展開される芝居を、地元で鑑賞することができる機会が数多く提供されることを期待する。


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