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青森市演劇新聞第2号

青森市演劇新聞「舞台」第2号

 平成12年11月20日発行
 編集:劇団雪姫
 発行:貴田千代世

     < 目 次 >
  1. 特集・座談会#1
  2. 特集・座談会#2
  3. 演劇評 劇団雪姫公演「寿歌」 安達良春
  4. 演劇評 演劇団健康公演ACT5「カラー・アズ・ビギニング 〜夜明け前〜」 佐々木真理子
  5. 演劇評 演劇団健康公演ACT5「カラー・アズ・ビギニング 〜夜明け前〜」 柴山大樹

◆特集・座談会#1
 「私たち舞台に立っています!」
 出演者 秋田美紀(劇団支木)、小山かつら(劇団雪の会)、
       佐々木真理子(劇団雪姫)、蝦名奈央(青森大学演劇団健康)
 特別出演 貴田千代世(劇団雪姫)
 司会 船水千秋(劇団雪姫)

船水 それではまず、所属団体と、活動期間をふまえた自己紹介をお願いします。
秋田 「劇団支木」の秋田美紀です。劇団に入って十五年になります。
蝦名 「青森大学演劇団健康」の蝦名奈央です。高校一年の時に学校の演劇部に入って、今の劇団に入ったのは高校三年の冬からです。二十歳になりました。
小山 「劇団雪の会」に所属しています、小山かつらです。演劇を始めたのは雪の会に入ってからですので、六年になります。去年、同じ劇団の人と結婚しました。
佐々木 「劇団雪姫」の佐々木です。入団したのは平成五年ですが、一時休団期間がありまして、平成七年から、活動を再開しましたので六年になります。去年結婚しました。
船水 結婚している方、いない方がいますけれど、演劇を続けていくうえで、家庭と仕事との両立に関して感じている事がありますか。
小山 私は去年結婚したんですけど、それまでは結婚はまだいいやって思っていました。というのは演劇をまだやっていたいと思っていたからなんです。そんな時に、同じ劇団の人と出会いまして、この人と結婚したら演劇を続けていけるかなと思って結婚しました(笑)。仕事の忙しさも理解してくれますので、良い関係だなと思っています。
船水 両立は難しいと思っていましたか?
小山 そうですね。やはり相手の理解がないと…。夜も遅くなりますから演劇はやっていけないかなと感じていました。
船水 他の方はいかがですか?
秋田 佐々木さんの旦那さんは演劇関係の方ですか?
佐々木 いえ、全く関係のない人です。私は両立っていうことを意識したことがなくて…。主人は私の舞台を今まで見に来たことがないんです。よく相手の理解があっていいねって言われるんですが、理解してもらっていると考えたこともなくて…。
秋田 何にも、言わない?
佐々木 やるべきことをやっていれば、何にも言われませんね。結局自分の好きな事をやるためには、やるべきことをしっかりやらなければいけませんよね。例えば、朝早く起きて、お弁当を作るとかね。
船水 男の人は自分の奥さんが、夜遅くまで外出するということに対して偏見を持っている人が多いと思うんですが。
秋田 男の人の方が独占欲が強いんですよね。ある意味勝手な部分があって、自分は遅くまで飲んでていいんだけど妻は早く帰らなきゃいけないっていう考えを持っている人が凄く多いんですよね。
佐々木 そういう人と一緒にならなければいいんですよ。
秋田 そうできればいいんだけど、付き合った人の理解を得ることができなくて演劇を止める人が多いんですよ。最初から演劇を続けることを前提にするなら、理解のある人を捜せるんだろうけど。偶然そんな理解のある人に出会えたとしたらそれはラッキーな話であって、なかなかそんな人と出会える機会はないですよね。
船水 蝦名さんは学生さんなんですけど、家庭をもちながら演劇を続けている方々を見ていて、今後の自分に不安を感じていませんか?
蝦名 私の母も演劇じゃないんですけど、ママさんバレーをやってるんですよ。夜が遅いとか、日曜日も練習とかで、おじいちゃんとか、お父さんはあんまり良く思っていないと思うんですけど、それはやっぱり母が家事をしっかりやっていないからなのかもしれませんね(笑)。父はお酒が入ると、好きな事をやるのは良い事だって言うんですけど、母は良く思われていないと思っているみたいなんです。そんな母を見ていると、両立って大変なんだなって思いますね。
船水 まだまだ先の話かもしれないけど、もし今後も演劇をずっと続けていくとしたら、自分はどういう両立の仕方をしていくと思いますか?
蝦名 演劇は気が済むまでやっていきたいですから、仕事をしつつ、家事をしつつですかね。覚悟はしています。実は今、山形か、青森かの選択を迫られていまして…。今お付き合いしている人が山形出身なんですけど、彼の就職次第ではどっちかに決めないとって考えているんですけど…。きっとそれが私の分岐点になるのかもしれませんね。あれ、話がそれちゃったみたいですね。
船水 そこらへんは個人的に、後でゆっくり聞かせてもらおうかな(笑)。秋田さんはお子さんがいますけど、支木(劇団支木)は、子供さんがいても続けている人が結構いますよね。
秋田 そうですね。ただやっぱり一時期やめちゃいますね。手のかかる時期とか受験の時期とかは子供に集中しますから。その後ですね、もどってくるのは。あとやっぱり、同じ劇団の人と結婚した人は続けています。子供の世話は俺がみるから、お前行ってこいって感じかな。私のようなパターンは稀ですね。
佐々木 え? どういうパターンですか?
秋田 稽古場に子供を連れて現れるって、パターン。
船水 劇団の体制もしっかりしていますよね。
秋田 劇団には感謝しています。二人で一人として接してくれますから。遠征の時は一緒に行くってことを前提に計画を立ててくれるんですよ。稽古の時も、ちゃちゃいれられますので悪いなあと思いながらも甘えています。
船水 そんな環境の劇団がもっと増えていって欲しいですよね。
秋田 かなり稽古には支障をきたしますけどね(笑)。一人遊びには慣れているんですけど、稽古が遅くなってくると眠くなるから、くっついてくるんですよ。立稽古の最中でも。でも誰も嫌な顔ひとつしないで面倒みてくれますから、私は続けていられるんです。
船水 公演当日はどうしているんですか?
秋田 休団中の団員が楽屋の管理をしてくれますので、その人達にお世話になったりしています。
船水 支木は公演中、託児所なども設けていますよね。
秋田 そうですね。子供がいて普段、演劇をなかなか見ることができない数人の人が順番で面倒をみてくれています。今日は、私が公演見るからお願いって言う感じで。でも一般のお客さんの利用率はよくないですね。子供を連れて見に来るという習慣が無いんでしょうね。
船水 女性の場合、演劇をやるにしても、見るにしてもいろいろ制約がありますよね。
秋田 私の相手の人は演劇に対して、まったく理解のもてない人だったんです。演劇に対して嫉妬するくらい。
佐々木 お付き合いしているころから、演劇はやっていたんですよね。
秋田 そうなんですけど結婚したら止めて欲しいって考えていたみたいで、一時は止めることも考えたんですけど彼の友人が私の舞台を見て、あんなに好きなことを止めさせてどうすんのって言ってくれたみたいで、家のことをしっかりやってくれるならって許してくれたんです。ただ、子供がいなかった期間は、私が稽古に行っている間、自分の自由な時間がもてるということで良かったらしいんですけど、子供が生まれたら面倒も見なくちゃいけないし、その間妻は演劇に夢中になっているのかって思うと爆発してしまうらしいんです。
小山 私はまだ子供はいないんですけど、将来的には子供は欲しいと主人と話しています。二人で演劇やっていくことを考えるとやっぱり同居かなって思うんですよ。主人は大丈夫だって言ってくれるんですけど、不安もあります。仕事もして、芝居もして、子供もしっかり育てていきたいんですけど…。
秋田 甘えられるところがあるんだったら、甘えたほうがいいよ。それが続けていく秘訣なんだから。
小山 主人の両親もそれを望んでいるみたいなんですけど、どうしても気をつかっちゃいますよね。今後、子供生まれたら、悩みが増えちゃうんですよね…。
秋田 私は実家にも反対されています(笑)。子供もいるんだから、早く落ちつきなさいよって言われます。
船水 私は子供いないんですけど、やっぱり言われますね、落ちつけって。遊んでいるっていう感じで見られているのかな。演劇に対する理解度の問題なんでしょうけど。
佐々木 周りの理解がないとできないのかなぁ。
秋田 できないかもしれない。ただ私は、甘えることができるところが無いから、稽古場に子供を連れていくしかないんです。なぜそこまでして続けるのって思われるかもしれないけど、なんでって言われてもねえ(笑)。
佐々木 演劇を続けたいから三十まで結婚しないっていうことをおっしゃる役者さんがいますよね。やりたいことがあるから結婚しないっていうような…。それってどうなのかなぁ。
蝦名 やっぱり皆さん、そんなふうに考えているのかぁ。先入観っていうか。私なんか、後先考えずに結婚しちゃいそうですね(笑)。それからのことは後で考えます(笑)。だから苦労するんですよね、きっと。
佐々木 続けている人たちは、したいときにする人たちなんですよ。
秋田 そうかもしれない。
小山 今しかないって結婚もしたし、演劇も続けたかったし、欲張りなのかな(笑)。
佐々木 私は家庭もって、仕事して、劇団入って、今、大学院でも勉強しているんです。それから遊びのための時間もしっかり持っているんですけど、時間の使い方だと思うんです。今一瞬一瞬を自分のために大事に使っていこうと思えば結婚もできるし、芝居もできるし、学校にも通えるんです。ですから、やってみないで悩んでいる人が多いと思います。あと5秒後に死んでもいいよってくらいの時間の使い方をしたら、なんでも出来るような気がします。そこのところを、演劇やっているから遊べないって言う人にわかってもらいたいんです。
秋田 気持ちの持ちようですよね。
佐々木 そうなんですよ!
秋田 結婚したら、飲み会あっても早く帰らなきゃって言う人がいるんだけど、私なんか、何で何でって引き止めちゃう(笑)。
佐々木 そうなんですよ。何で、何で帰っちゃうのって(笑)。
秋田 旦那が心配するからって思っている人が多いんですよね。
小山 私は、最後まで居ますよ(笑)。とりあえず電話入れるんですけど、楽しんで来てって言ってくれますよ。帰った時は、寝ている旦那を起こしたりなんかして(笑)。やはり、その時を楽しみたいんですよ。飲み会の時だって、勉強になることだってあるわけだし、無駄にしたくないじゃないですか。
佐々木 周りの人に旦那さん大変だねぇって言われるんだけど、それは違うんですよ!
秋田 旦那を操縦するのよ。(一同大拍手)持ち上げるときは、しっかり持ち上げて、決してのさばらせない。
小山 私たちなんか、二人とも飲むのが大好きなんですよ(笑)。ですから一人で行くのは心苦しいんですけど、お互い様ですからね。そして、二人の時はもっと楽しくですよ。
佐々木 信頼関係ですね。
秋田 (写真撮影のため、その場にいた貴田に)操縦される立場としてはいかがですか?
貴田 立てるべきときに、立ててくれれば、男はそれだけで満足ですからね。年がら年中勝手なことばかりされるのは困りますけど、ここぞという時をしっかり押さえてくれたらそれでいいんですよ。
秋田 一番にしてあげる時は、しっかり一番にしてあげればね。
貴田 そうなんです。
一同 なるほど!
船水 ところで、家庭に演劇とか、仕事を持ち込むことはありますか?
小山 仕事は持ちかえることもあります。芝居は・・・同じ劇団ですから(笑)。
貴田 同じ目的、趣味をもった人と結婚するのはどんなものですかね。我家は喧嘩の原因が全て演劇なんですけど(笑)。
小山 気が気じゃ無いんですよ。今の稽古場では役者と演出(旦那さん)ですから、気になるところは家帰ってから、ああだこうだって話し合います。喧嘩することもありますけど、しっかり結論をだして、後にひかないことですね。
貴田 稽古が終わって家帰ったら、演劇のことは忘れて、夫婦の会話を楽しみたいと思うことはないですか?
佐々木 私は忘れたいとか、考えたくないとか考えたことないから…。
貴田 あなたに聞いた私がばかでした(笑)。
佐々木 私が一緒に生活している人は演劇に興味を持とうとする人ではないし、ましてやテレビドラマも見ないんです。稽古が終わって、私が戯曲を読んでいる時は、自分も本を読んでいます。そんなふうですから、演劇を家庭に持ち込みすぎるくらい持ち込んでいますので、腫れ物に触るように、演劇の話題は避けているみたいです(笑)。信頼関係ができているって勝手に思っているんですけど…。
貴田 蝦名さんの付き合っている人は演劇関係の人ですか?
蝦名 そうですね。今は、やっていませんけど。
貴田 どうですか、演劇の話はしますか?
蝦名 いっつも話してますよ。問題があるとすれば、両親の方なんです。私は無理矢理大学に入れてもらったんです。本当は就職するつもりだったんですけど、三年の十二月に「健康」の舞台に出て、なにがなんでもここにこなきゃって…。一年の時は人並みに単位が取れていたんですけど二年になったらなかなか取れなくてなっちゃって、「演劇ばっかりやって、大学行ってないんだろう!」って怒られました。これが両立してないっていうことなんでしょうね。
船水 実家から通っているんですよね。
蝦名 すぐ近くなんですけど、朝起きれなくて…。
船水 実家にいて、弊害とかありますか?
蝦名 う〜ん、やっぱり家に帰ってこないということで、寂しい思いをさせているのかなぁ。
家族の態度が冷たいんですよ、「また、出かけるのか!」って。
小山 心配してるんだよ。
蝦名 両親が働いているから晩ご飯の時、おじいちゃんひとりっきりってことが多くて、おじいちゃんには悪いけど私は演劇やんなきゃだめなのよ、許してって心の中で謝りながら出てくるんです。ちょっと切ないですね。
船水 公演は見に来てくれるの?
蝦名 お母さんは来てくれますね。それから、妹もたまには…。
船水 私の両親も反対はしなかったけど、最初は来てくれなかったなぁ。生活のペースが崩れてくるし、私の態度にも問題があったのかもしれないなぁ。でも公演の度にチケット渡していたら、そのうち来てくれるようにはなったけどね。やっぱり、家族が来てくれるのは本当にうれしいことですよね。理解は別として(笑)。
貴田 家族の理解かぁ…。秋田さんのお子さんは演劇やってるママを、どんなふうに思っているのかなぁ。
秋田 この子は劇団に行けば遊んでもらえるから、大いに続けて欲しいと思っているんじゃないかな(笑)。自ら行きたがるんですよ。大きくなったら、僕もやるって言うんですよ。でも、眠い時に寝られないこともあるし、かわいそうな時もあるかな。
貴田 秋田さんは、子供さんが生まれてしばらく休団していたかと思うんですが?
秋田 二年くらいですね。お腹に入っている一年と産休の一年です。
貴田 その期間も演劇に対する熱意は保たれていたんですか?
秋田 その時は、この子を見ているだけで充分でしたから、そんなに演劇に対しての思いはなかったような気がします。ただ一年くらいたって、あれこれ演劇の話題が聞こえてきた時はムクムクとやる気が湧いてきましたね(笑)。実は子供ができたこと知らなかったんですよ。ちょうど「がんとり」(劇団支木公演)の公演がありまして、その公演の一週間位前に何か変だなぁっていう感じがあったんですけど、急遽入院ということになってしまって、出演できなくなちゃったんです。幸いにも代役の方ががんばってくれて公演は無事終えることはできたんですが、かなりショックでした。みんなにも迷惑かけちゃったし…。でも子供は好きだし、この子との時間を大切にしようかなと思いました。けど、いつ復帰しようかなとは考えていましたよ。
貴田 復帰のきっかけは?
秋田 青森市制百周年の演劇公演です。あんな大っきな公演にでないわけにはいかないでしょうって感じですよ(笑)。ところが二年のブランクは大きかったですね、腹筋が落ちちゃってるんですよ。
貴田 猛特訓をしたわけですね。
秋田 カラオケでね(笑)。
(一同大爆笑)
貴田 久し振りの劇団はどうでした?
秋田 団員の皆がものすごく成長していて、驚いちゃいました。動けない自分にもどかしさも感じましたし、物凄い葛藤が自分の中にありました。
船水 子供を産んで、配役の傾向は変わりましたか?劇団における立場というものも変わってきたと思うんですが。
秋田 ほとんど変わっていません。ただ、演出の中野が打ち上げの席で、母親になることによって、演劇を創っていくうえでの感情がすごく良く反映されてきているからこれからもがんばれって言ってくれたんです。すごく励みになりました。
貴田 結婚して演技に変化があった人はいますか?
秋田 結婚だけじゃ、変わらないんじゃないかなぁ。
船水 家族じゃなく、他人と生活を共にすることによって、無意識に変わっていく自分というものはあるのかもしれないね。
佐々木 私はより楽しくなりました。
秋田 充実しているんだよ。
船水 結婚して何年になるっけ?
佐々木 一年半かな。
貴田 蝦名さんは恋をして変わりましたか?
蝦名 あんまり変わらないような気がしますね。あっ!、その後の公演、ボロボロだったんだ…。「半神」(演劇団健康公演)だったんですけど、しばらく柴山さん(演出)口きいてくれませんでした。
貴田 恋に溺れたんだ。
蝦名 そんなことはないです! といいたいところですけど、やっぱ部内恋愛はだめですね(笑)。
小山 私は劇団内結婚なんです。私が一年先輩なんですけど、しばらくの間まったく恋愛感情をもっていなかったんですが、若手が集まって結成した「小雪組」がきっかけでした。「雪の会」の稽古と違って小人数だったし、かなり演出(旦那さん)とぶつかったんですが、彼の本質的なものを理解することができまして、こうなっちゃいました。
貴田 恋愛は力になりましたか?
小山 この人と結婚したら、ずっと演劇ができると思えましたし、そういう意味では力になりました。安易ですね(笑)。
貴田 幸せな出会いですね。
船水 女性が舞台に立ち続けるためには様々な要素がからみあっているように思えるのですが、皆さんが現在舞台に立っていられる秘訣を教えてもらえますか?
秋田 自分の歩んだ経験を無駄にしないって思うことかな。絶対に演技も豊かになるんだから。
佐々木 私は大学四年の時、就職活動とかあれこれ重なって一時劇団から離れていたんです。その辞め方が理不尽だったんです。配役も決まって、稽古も始まっていたんですが、突然稽古に行かなくなっちゃって…。これからの自分の生活と劇団を天秤にかけたんでしょうね。その逃げるという選択によって、あらゆることから逃げなければいけなくなってしまったんです。とにかく演劇を「雪姫」を嫌いになろうとしました。新聞も一年間読めなくて、当時「雪姫」は「トップハット」(青森市中三デパート)で公演を行っていたんですが、中三の前を通ることさえ避ける状況で…。もちろん稽古場である文化ホールにも近寄りませんでした。あらゆる所から逃げまわる結果になってしまって、その時思ったのは、何であの時逃げちゃったんだろう、逃げる労力より、踏ん張ることの方がいかに楽かということなんです。一回逃げちゃうと、ずっと逃げ続けなくちゃいけない。そんな時、代表(貴田千代世)から手紙をいただいたんです。それで、しっかり責任をとらなきゃいけないと感じまして、公演に足を運びました。そこからがまた大変で、逃げる労力よりも、更に信頼を得るための労力がもっと、もっとしんどいものなんです。とにかくその時思ったのは、好きな事とか、やりたい事は逃げないでやっちゃったほうが楽なんだということなんです。だから結婚にしろ、学校にしろ、演劇にしろ好きな事、やりたいと思った事は、やらなきゃ後々三百倍も後悔しますから、私は好きな舞台に立っているんです。男性にしろ、女性にしろ、好きな事はやった方が良いんですよ(笑)。
秋田 やりたいと思う意志の問題ですよね。
小山 演劇も仕事も、どちらもやっていきたね。きっと同時にできることなんですよ。ただ、演劇やってるからといって仕事を中途半端にしちゃだめですよ。どっちも犠牲にしないっていう意志があるからこそ舞台に立てているんです。きっと皆さんもそうだと思います。
秋田 そこそこの一生懸命さと、そこそこの協力も必要ですよね。
小山 そうそう、決して自分だけの力だと思わないこと。
佐々木 あれをやれば、これができないんじゃなくて、本当に気持ちの持ちようですよ。
やりたいと思ったら、何でもできるんですから。
秋田 そう、その頑張っている姿が見えるからこそ、周囲の方々が「協力しましょ」って気になるんじゃないかな。私は不規則な仕事だし、遠征公演に参加するためには、確実に休みをもらわないといけないんです。稽古も私の勤務を考えて組んでもらっています。だから土曜日曜、お盆、正月は無いようなものですよ。稽古の無い日は夜勤なんですから(笑)。でもね、これをこなさないと演劇はできないし、これをこなさないと、職場での理解も得ることができない。
貴田 学校も職場も同じですよ、蝦名さん。しっかり勉強してりゃ、家の人は何も言わないって(笑)。
蝦名 う〜ん。(一同大爆笑)後期からはちゃんと早起きして授業行きます。
船水 そろそろ時間になりましたが、これからもこういう機会を見つけて、いろいろ情報交換をしていきたいものですね。

《 後 記 》 青森市は、活力に溢れた女性演劇人が多い。大切なものを一見さりげなく守り続けている彼女たちは、実に「美しい」。そんな彼女たちが、これからも舞台に立ち続けることができるよう、願って止まない。


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◆特集・座談会#2
 「劇場としての青森市を担う」
 出演者 白鳥陽大(劇団デンジャラス3時・主宰)、柴山大樹(劇団夢遊病社・代表)、
       田邊克彦(劇団夢遊病社・制作)、佐藤優(劇団雪姫)
 特別参加 船水千秋、佐々木真理子(劇団雪姫)
 司会 貴田千代世(劇団雪姫・代表)

貴田 まずは、青森市で演劇を始めるに至った経緯を簡潔に。では白鳥君からお願いします。
白鳥 大学の時に『デンジャラス3時』という劇団を創りまして、高校の同じ演劇部員を集めて創ったんですが、団員が全国に散っていたので、「夏と冬」に青森に集まって公演をやるというスタイルでやってました。で、就職とかして何人か帰青してくるようになったので、県外というより青森に根ざした形になっているんですが、今度は就職したせいでバラバラになって、あまり充実した活動はできていませんね。
貴田 柴山君は?
柴山 高校演劇をやってまして、それでまあ進路を決める際にどこでもよかったんですけど、とりあえず芝居をやりたいなと思っていたところ、顧問の先生が弘前大学の『マップレス』の出身だったんで、青森に行って学生演劇をを学んでみるのも面白いと勧められまして、青森大学なら入れるかなと(笑)。で、青大のパンフレット見たら演劇部がなかったので『弘前劇場』に入ろうかなって勝手に思ったりしていたんですけど(笑)、青大に『健康』っていうのがあって、入ってみたら散々な有り様でした(笑)。
貴田 乗っ取ったわけですね。
柴山 ええ(笑)。たかだか高校演劇での経験ですから、一から芝居をやり直したいなと思っていたところだったんですけど、『健康』に入ったら一からやり直すどころじゃなく、こっちがやらなければいけない状態になっていたのでいつのまにか代表になり(笑)、2・3年の間『健康』で、代表と作・演出をやりまして、3年になって一区切りってことで、新しく劇団を・・・創る気は無かったんですけど(笑)、どうしようかなと思っているときに「プロデュース公演をやらないか」と『健康』の知り合いから言われまして、めんどくさいから劇団にしてしまおうという事で『夢遊病社』を一応創りました。その時にプロデュース公演にかかわるはずだった田邉さんが入れてくれっていうことなんで、ま、入れてやってもいいかなと。
田邉 嘘ばっかり。
柴山 で、その時の、プレ旗揚げ公演のメンバーだった数人も入れてくれっていう話だったんで、
貴田 仕方なく、
柴山 入れました。こちらからはいっさい誘ってません。私は勧誘が嫌いなので。「勝手に創ってズルイ」ってことで。それで入ったのが今のメンバーです。今は5、6人ですね。プレ旗揚げ公演はやったんですが、本格的な旗揚げはもうちょっといろいろ充電してからにしようと考えていまして、今年1年は少し他の劇団に客演したり、脚本を書いたり、いろいろやりつつ、旗揚げに備えようと思っています。
貴田 本格的な旗揚げの予定はあるんですか?
柴山 えー、それがまったくないんです。まあ現状みて、その時点でやりたいことと劇団の現状が上手く一致したらですかね。劇団を作った際には、もうちょっと人数を多くして、ある程度システムをしっかりさせた上で旗揚げしたいなあと思ってたんですけど、少人数の芝居で旗揚げするのもそれはそれでおもしろいかなっていう考えもあるんです。その時にやりたいことと、その先の展望まで考えて、それで劇団の現状と合ってきたらその時がタイミングかなと。あとはともかくタイミングの問題になってくるんだと思うんで、もう1年くらい充電になるのかもしれないし、すぐ旗揚げになるのかもしれないし、わからないですけどね。
貴田 旗揚げしない可能性も含まれてる?
柴山 そうですね。もしかしたら旗揚げせずに、もしくは旗揚げしたときには、最初にいたメンバーは一人もいないという(笑)。そういう、
貴田 可能性もあると。
柴山 ま、わたしがいるからいいんじゃないんでしょうか(笑)。
貴田 (笑)ということで、その横暴な代表の元で、制作、俳優をやっている、田邉君。 
田邉 本当に横暴な代表で・・・(笑)。経緯としては同じなんですけど、「里見幸太郎」さんという時代劇の役者さんがいらっしゃいまして、
柴山 「簡潔」に。
田邉 高校時代、その役者さんに憧れて、演劇部だったらきっと演技関係のことをやるんだろうと思って入ったら、全然遠いところで「時代劇なんか古い」とかなんとかケチをつけられそのうちに高校3年生になりまして、それで大学行こうかな、演劇もちょっとやってみたいな、と。それでまあ、入れそうな大学が青森大学だったと(笑)。あとは柴山君と同じ(笑)。劇団の名前とかいろいろ2人で候補あげてたんですけどなかなかこうぱっとしないのが多くて、それで彼があっためていたという名前で『劇団夢遊病社』と名付けました。本人自分で決めておきながら恥ずかしい名前だってよく言うんですけど、そんな感じで今があるわけです。
貴田 次に、佐藤君のプロフィールと紹介を。
佐藤 私はアニメがむちゃくちゃ大好きだったんです。そういうのを突き詰めていくうちに番組だけではなくて、スタッフに目がいくようになりました。そこで声優という職業を知ったわけです。その人たちは結構劇団に所属しているケースが多くて、そこで初めて演劇ってものに目がいったんです。それが中学校の始めくらいの頃だったんです。それからずっと演劇をやりたいな、やりたいな、と思いつつも周りにそういう環境がなくって、で、大学、青森に来る事になりまして、パンフには書いてなかったんですけど大学っていったら演劇部っていうイメージが私の中にあったんですが、公立大学には演劇部が無くって諦めようと思ってたんです。青大の演劇サークルに入ろうって考えていたこともあったんですよ。その矢先『雪姫』のチラシが大学の掲示に貼られてまして、その裏に「劇団員募集」とありましたので稽古を見学させていただいて、その場で入団しちゃいました。
貴田 劇団名のことでちょっと聞きたいんですが。『夢遊病社』っていうと、あの・・・。
柴山 あの、『夢の遊眠社』が好きなんですよ。で、なんか似てるといいなって(笑)。
田邉 (笑)やっぱり。
柴山 「社」を入れたかったんです。「会社」の「社」を。会社ってすごいじゃないですか、グダグダした劇団いっぱい見てきたんで、なんかそういうグダグダしたのはすごくイヤだなと思って、ちょっと会社っぽい、それならいっそ企業っぽい、経営学部ですし(笑)、一応企業っぽいほうがいいかなと思って。それと、そういう堅いのと、わけわかないのがうまく合わさると楽しいかなあと思って。長谷川孝治(弘前劇場)さんからは「もうちょっと考えたほうがいいぞ」って言われましたけど、「余計なお世話だ、このクソジジイ」てことで(笑)。
貴田 今のは掲載していいんですね、「クソジジイ」まで。
柴山 ええ、いえ、それはあの・・・田邉さんの発言ということで(笑)。
(一同大爆笑 )
田邉 いやいやいや代表。
貴田 『デンジャラス3時』っていうのはどういう? これもまた『夢遊病社』に近いようなって言っちゃぁ怒られますけども、ユニークな名前ですよね。
白鳥 はい、事あるごとに毎回聞かれるんですよ。
貴田 ここで一発、ケリつけてくださいよ。
白鳥 「デンジャラス3時」はですね、んー、いくつか説があるんですけど・・・。「3時」っていうのは「AM3時」のことです。表向きには「朝と夜とのわからない日の変わり目」とか、微妙なわけですよ。「芝居やってるときと、芝居やってないときの自分の微妙な位置というか。あるいは夜になって「夜のテンションを超えた時」というか。そういうところでのこう、いつもと違う雰囲気のものができればいいね、と。
一同 おお!
白鳥 「4時」は朝だ。「2時」は夜だ。だから「3時」だ。
貴田 ほほー!
白鳥 て、いうのは一応、表向きですね。ただ、裏向きにはいろいろあって、旗揚げの時のメンバーだった、僕らにとっては大先輩というか、サクラダマドカさんという、ABAで去年までキャスターをやってた人が高校時代、合宿とか夜中3時になにかしでかす、というのが青校演劇部では伝統になってまして、「夜中3時までは寝てはいけない」というのが合宿の決まりだったんですね。次の日が朝早くても、寝ちゃいけないってのがありまして、なにかと「3時」は区切りだったんですよ。そういう、まあ、夜の無駄話とか、いろんな話とかの区切りが「3時」で「3時」過ぎたら寝ようと。次の日もあるし。というのもあって、「3時」がひとつの区切りでもあったんです。で、あとは旗揚げの企画会議とか、そういうのは全部東京でやったんですけど、みんな基本的に当時は散っていたので、北海道とか大阪とか、みんなバラバラに電車で来ると、揃うのはもう夜の10時11時くらいで、「みんな久々だね」「カンパイ」って、ひと騒ぎして芝居の話しっていうと、もうだいたいそんな時間だったので、やっぱりなにかしらその、きっかけは3時にやってくるなってことで「デンジャラス3時」になりました。
貴田 みなさん様々な経緯をもって青森市で演劇やってるわけなんですけど、出身地と青森市の演劇事情についてはどんな違いを感じていますか?柴山君は仙台出身ですよね。
柴山 仙台はここ数年「劇都」と書いて「ドラマティックシティー仙台」っていうのをやってて、毎年演劇祭を行っています。東北の中では一番演劇が盛り上がってると言われるんですけど、地元で劇団やってる人に聞くと決してそうとはいえないっていう現状があるんですね。例えばシンポジウムやプロデュース公演なんか、いろいろ確かにやってますし、確かに東京とかその他の地域ではそれなりに評価されたりしているんだけど、実際地元での評価は「?」というところがありますね。実際客入ってるのかっていうと、入ってないんです全然。で、死ぬほど仙台って劇団があるんですよ。
貴田 どのくらいあるのかな?
柴山 え、今、多分、二百かな?
貴田 え、仙台市内ってこと?
柴山 仙台市内でもそれくらいはあるんじゃないですかね。そのどれもが、出来てはつぶれ、出来てはつぶれで終わっているんですよね。だから、根本的に文化的な土地じゃないんですよ。簡単に言ってしまえば、乱暴なんですけど。あんまり興味がないんですよね、仙台市民ってそういうものに。で、仙台市って「東北の窓口」ってよく言われますけど、言ってしまえば東京に一番、地理的にどうこう言う訳じゃなくて、東京に一番近い条件があるわけで。いい芝居観たい人は東京に行くんですよ。例えば、仙台市内で芝居を観るときどうなのかというと、やっぱり名前のある芝居しか観に行かない。地元の劇団がやってて、閑古鳥が鳴いていても、東京のそれこそ「扉座」とかが来たら行列ができるほど人が並ぶとか。もう、それは歌手でも、演劇でも、なんでもそうなんですけど基本的に名前のあるものしか喜ばないんですね。仙台って元々「プチ東京」みたいなところを目指しているところがありますから。仙台市民は東京に対するコンプレックスってものすごく強いですね。だからなんか「所詮東北だ」っていう意識が仙台市民の中にはどこかあって、なにかする度に、東京に出ていく。で、東京から来たものは無条件に受け入れるっていう、ま、乱暴ですけどね、言い方としては。でも絶対そういう風潮があるんですよ。演劇祭にしてもはっきり言っちゃえばモノマネだし、プロデュース公演にしても。で、地元のマスメディアとか、そういったものも決して好意的ではないんですよ。お客さんも集まらないし、そういうものを受け入れるっていう土壌が基本的にあんまりないんじゃないかな。だから、演劇を純粋にやっていくってことでは、たぶん仙台っていう土地はかなり下の位置にあるんじゃないかな。実際、仙台で劇団をやってみる気はあるかって言われれば、私は、全く無いですね。昔の知り合いでやっている人たちはいますけど、うまい人はかたちを変えてやってますね、芝居だけじゃなく、お笑いもいれたりとか。そういうかたちでやらないとどうやったって上手くいかない。純粋に芝居だけというのでは、絶対に上手くいかないんじゃないかな。仙台でも東京にいってる劇団とか昔から「IQ150」とかあるんですけど、ま、そういうのはあくまで一例ですね。基本的にそういうことの出来る土地ではないと言い切ってしまってもいいくらいのところなんじゃないかな。まあ、もちろん趣味的に楽しんで芝居を作るっていうんなら、それはどこでも可能ですけど、ただ、演劇である程度やっていきたいっていう人にとってはかなり不向きな土地だと思いますね、仙台というところは。一個人の感想ですけど。
貴田 青森市は、柴山くんにとって魅力ある土地なんですか?
柴山 そうですね。さんざん、さっき言ってた先生から「文化的な土壌が青森にはある」って聞かされてましたから(笑)。先生にとって一番ショックだったのはその時代のことらしいんですけど、ライブハウスみたいなのがいっぱいあって、そこで普通の若者が普通の感覚で、お芝居を見に来てるっていう、そういう感覚が弘大付近ではあったって言うんです。それがすごいびっくりしたって。根本的に「ねぶた」っていうものがあるじゃないですか。「ねぶた」って若い人からお年寄りまで、全員参加しますよね。それこそ普段普通の若者でも、ああいうお祭りに参加するっていう。仙台市民からみたら考えられないことなんですよ、ああいうことって。仙台には「七夕」という悪評高い祭りがあるんですけど(苦笑)
(一同、大爆笑)
柴山 やっぱりね、何か祭りごととかあった時に若い人が参加するかどうかって単純な目安ですけど、あると思うんですね。青森には「ねぶたに参加する」っていう根本的な土壌があって、それがすごい。なんていうのかな、市民性っていうのがあるかないかって、すごいでかいと思うんですね。で、当然のようにこっちじゃぁ若者がねぶたを作ったり、ねぶたを楽しみに心待ちにしていたりっていう状況があるわけですから、それはやっぱり仙台からみるとぜんぜん考えられない。むしろうらやましい状況だと思いますね。で、文化的なものを受け入れる土壌っていうのがものすごく基本的にあると思うし、逆にこっちの芝居のあれとかでいえば、もちろん仙台はいろいろな劇団とかありますから、静かな演劇から、激しい演劇から、いろいろ。こっちはまだ、あれじゃないですか、「雪女が出てきて」っていう世界が通用する(笑)。だから逆をいえばまだ未開発だと思うんですよね。だからこっちでは、そういうところからまだ始められるっていうか。よく言われることですけど、劇団性がもう通用しない時代だとか、これからはプロデュースの時代だ、とかよく言われますけど、こっちではまだまだそういう所から積み重ねていけるっていうのはなんかすごい。まだまだ未来は少なくとも、仙台市内からみればある土地には見えますね。しかも東北の中ではたぶん一番、そういう土壌がある土地なんじゃないかという気がするんですけどね。
貴田 田邉君は、どう感じていますか? 新潟と比較して。
田邉 新潟は・・・市のほうは全然わかんないですけど、自分のいた地区との比較となると、ぜんぜんこっちの方がいいんですよ。何がいいかっていうと、私の地元にも「演劇研究会」ってのがあって、一時期入ってたことがあったんですけど、まあ・・・自己満足っていうか、創って終わりみたいなところがあって。お客さんも身内しかこなかったりとか、なんのためにやってんのか全然わかんないなっていうところがあります。青森市に来て、『健康』と、自分が客演参加したところしかわかんないですけど、スタッフ面がやっぱりしっかりしてて、そのおかげでいろんな年齢層、それこそ大人から子供まで、みんなが見に来るっていう状況がこっちのほうにはあって、観せる側としては、すごいおもしろいんですね。新潟だとやっぱり、限った人間しか来ないから、ある意味「楽屋デー」みたいなところがあって、ぜんぜんおもしろくない。ただ最近なんですけど、東京の劇団なんですけど『山の手事情社』の主催の人が来て、ワークショップやったり、野外劇やったりとかして最近は活発になりそうな兆しがあるらしいんですけど、それでもまだこっちのほうがおもしろいなと、自分は思ってますね。
貴田 地元に帰ったとき、気になりますか? 地元の演劇事情は。
田邉 そうですね、やっぱり気になりますね。自分にとって、青森は面白いということがここにいる一番の理由なんですが、将来もし新潟が面白くなればきっと新潟の方に行くだろうし、他の場所で面白い所があれば、そこにも行ってみたいですね。
貴田 佐藤君は、山梨と比べてみてどうかな?
佐藤 山梨って、基本的に文化的水準が私の見方では低い。いろんな理由があると思うんですけど、最大の理由っていうのが「東京に近い」っていうのが一番の理由だと思うんです。例えば、名のある劇団の公演を観に行こうと思ったら、その日の朝思い立っても、午後の公演に行けるだけの距離なんですよ。仙台市が「プチ東京」だったとしたならば、山梨県っていうのは「ニア東京」なので、東京の一部だと思ってるという感が絶対あると思うんです。だから地元では文化的な面が育ってこないんです。また逆にそういう中で、才能のある方がいらっしゃったとしても、東京に流れて行ってしまうという傾向があると思います。だから私も正直なとこ言うと、山梨の劇団っていのは調べない限り知ることができませんでした。そこらへんの掲示板に行って探しても見つからない状況で。そういう道の人に聞かないと、こういう劇団があるんだよっていうのがわからないくらい一般に浸透してないんですね。そういう意味ではすごく貧しい土地だと思いますね。青森も絶対、似たような状況があると思うんですけれど、特に演劇が好きだっていうわけでじゃない人が演劇を見るって機会は、まず絶対、知り合いとかじゃないとなかなか無いみたいで、私の友人たちもそうなんですけど、青森市内に劇団なんてあったのって聞かれることが多いんです。プロモーションの問題だけだとは思わないんですけど、一般的にあんまり演劇が浸透していないという事では、山梨も青森も同じ印象はあります。ただ、「ねぶた祭り」を見たときに青森って土地はすごい面白いって思ったんですよ。正直、青森をバカにしていたとこあったんですね。「ええ、青森?」っていう。けど、ねぶたを見てからっていうもの、青森ってこんなすげえとこだったんだ、まだこんなに町の人がアホになって一緒のことやれる土地なんだ。こんなのが日本にあったんだっていうくらいカルチャーショックでした、初めて見たときは。本当にびっくりしました。そういう意味では、文化的なものってむしろ山梨、東京より、青森の方がかえって芯のほうでは根強いんじゃないかって思っています。
貴田 あれ? 山梨とか仙台、新潟って、市民が一体になれる祭りって無いの?
佐藤 ないですね。
田邉 新潟もないですね。つくって欲しいんですけど。
貴田 仙台は「七夕」? あれはただ見て歩くだけか。
柴山 あれは仙台市民は一切見ません。
(一同大爆笑)
柴山 他の人が来て混んでるだけ。だって飾ってあるだけですよ。こういうヒラヒラのやつ。何が面白いんですか(笑)。しかもあれ終わったら平塚に行くんですよ(笑)。経済効果だけですよね、商店街が潤うっていうだけの話で。別に祭りがあるから何かあるっていうんじゃない。ま、それに関連したイベントとかはあるんですけど。でも別に祭りがあるから、何かおもしろいことがあるっていう祭りではないですね、七夕は。
貴田 そっか、「ねぶた」が文化的な豊かさを支えているのか。考えてもみなかったなぁ。白鳥君はどう思う?青森市出身でもあるし、東京でも演劇やってたんでしょ。青森市で演劇をやる魅力って何かな?
白鳥 んー、どうだろう。だから、外から来た人は新しいと思うからそうですけど、青森にいる人にとっては、「ねぶた」は日常だし、むしろ都会に比べれば刺激が少ないし、時代的に古いっていうか。若い人が芝居をしようとしたときにどうしても平板というか真新しいものも、凄いものもそんなに生まれてこない。けど伝統とか文化とかの土壌があるんであれば、突然変異的なことっていうのは起きるのかもしれないけど・・・。だから、『デンジャラス3時』だって、高校卒業したら演劇やるところが無くって、知ってる劇団とかも無くって、観に行ったらどうも古臭くて。じゃとりあえず自分らでやってみようと。例えば昔は、『雪の会』とかもっと勢いがあって、すごいカリスマ性があって、若い人が全部惹き付けられていって、そこに入っていく。現在はカリスマ性がある劇団が無いから、欲求不満で劇団を創っているだけかもしれないし・・・。
貴田 青森市っていう場所を、特に意識してる部分はないの?
白鳥 一応あるっていえばあるんですけど、でも例えば青森市だから方言を使わなきゃいけないとか、そういうことは一切考えていないです。雪の話をしなければならないとか、雪女出さなきゃいけないとか(笑)。文化的な土壌があるか無いかっていうのは、僕はあんまり信じてないんです。文化的な土壌が無いから、やりたい小屋も無かったし、やれる場所も無かった。頼っていける人もいなかったし、助けてくれる人もいなかったし。結局自分らで全部やるしかなかった。だから、「土壌」ってのは、どうなんだろう?
柴山 最初こっち来た時に、青森の若い人ってどんなこと考えてるのかなってすごい不思議だったんですよ。失礼なんですけど。例えば工藤静香(劇団夢遊病社)は青森、しかも「むつ」の出身者で、話を聞いたりしてたときに、たとえば雑誌が1日2日遅れるとかそういうのはあるかもしれないし、フジテレビの系列がないとかあるかもしれないけど、でも、仙台の若いヤツとしゃべってるのと一緒なんですよ。得てる情報は1日2日遅れかもしれないけどそんなに対して違わないんですね。視聴率みたら「SMAP×SMAP」が1位だし、土曜の夕方にやってるにもかかわらず。ただ、そういう人たちが、同じ情報得てるのに、芝居は相変わらず雪女だったり・・・っていうのがあるわけじゃないですか。それはすごくもったいない。蝦名奈央(演劇団健康・代表)が最初『健康』のオーディションを受けたときに言ってたんですけど、それまでは『支木』にずっと教えてもらってたから、『支木』の芝居が一番面白いんだと思ってたって、いや『支木』の芝居が悪いって言ってるんじゃないんですよ(笑)、蝦名はいいと思ってたんだけど、『健康』の芝居も観てみて、こういうのもあるんだって思ったっていうんですね。俺からすれば普通なんですよ。て、いうかこういうのはむしろ古いくらいの、「今は静かな演劇」とか言われてるくらいですから、そういういろんな選択肢があるのが本当は普通なのに、やっぱりそういうのしかないわけじゃないですか。で、それは若い人の責任じゃなくて、現にそういうものしかないから、もしくは他のものがあっても情報が伝わっていかないから選択肢がせばまっちゃってて、結局ずーとそれでいっちゃうってのがあって。さっき白鳥君も言ってたけど、いろいろあって、その中から『雪の会』なり『支木』なり、そういうのを選ぶんならいいんだけど最初から『雪の会』とか『支木』しかないと思っていて、そこに入るのはもったいないんじゃないかなって思うんですよねぇ。いろいろもっとあるよっていうことを、それを観てから決めても遅くないんじゃないかっていう気はするんですね。実際俺も高校の時、演劇好きだからって演劇部に入ったわけじゃないし。単に女の子がいっぱいいるから演劇部に入ったわけだし(笑)。それで結局入って訳わかんないうちに演出とかやらされて、芝居っておもしろくもなんともねえなって(笑)。芝居といえば小学校とか中学校とかで「走れメロス」とか、別に「走れメロス」が悪いって言ってるわけじゃないですよ(笑)。そういうのが演劇だって思ってるわけじゃないですか。だからなんか別に、未来のない産業だなあっていうのがあるわけですよ(笑)。でもね、例えば僕の場合は野田秀樹でしたけど、野田秀樹の芝居見たときに、ああ、こういうのやっていいんだと思って、だったらもうちょっとやってもいいじゃんって、もっといろいろ好きなふうにっていうのがあったりしたから。だから、絶対的なものってないはずだから、俺の場合はそういうきっかけがあったからいいけど、そういうのが無い人っていうのは可哀想というか、もったいないと思うんですね。もっと自分にとって面白いものがあるかもしれない。それをもっと探していけるようなあれがあればいいのにな、と。
貴田 確かにまあ、今までは『支木』『雪の会』っていう有名な劇団があって・・・、うち(雪姫)もやってたんですけどね。いたんですけどね、うちもね。
(一同苦笑い)
貴田 それはまあ、それとして。『デンジャラス3時』、『夢遊病社』ができて、青森市は前より選択肢の幅が確実に広がっているわけなんですけど、どうなんだろう、ちょっといじわるな質問をするけれど、間口を広げようという意識は本当にあったのかな。どうなんだろう。そこらへんの使命感みたいなのは。
白鳥 「使命感」ってのは?
貴田 選択肢が狭くて、自分がやってみたい場所が見つけられなかったから劇団を創ったし、若い人たちもきっとそうだろうという話が出てたんですけど、自分たちが劇団を創ることによって、これから舞台を踏む人たちがもっともっと選択肢があって、そして、自由に演劇をやっていける、そういう場を創っていきたいっていう使命感みたいなのはあるのかな?
白鳥 主宰の立場からと、個人の立場からは違うんですけど。もちろん、そういう人たちが入ってきたからには、面白いことをやってみたいし、やらせたいというのはあるんですけど、組織としてみた場合『デンジャラス3時』っていうのは非常に、個人で、何人かで、渡り歩いてるようなしっかりしてないんですよ。今までだったら、船橋君(制作担当)とか僕とか、ほんとに何人かで取り繕ってたといえばあれなんですけどある種、下が不安がらないようにダマシダマシみせてきたところもあるので、これから例えば高校生の人あたりが卒業して、これから芝居をやりたいというなかで選択肢として選ばれたとき、正直いうとそれは怖いですね。うちに入ってきて君を伸ばすことはできない。もしも、ほんとに芝居続けたくて、そういう人と知り合いたくて、まあ、何がいいか悪いかは別ですけど、真っ当に演劇をするんであれば、あまりうちはお勧めできない。
(一同爆笑)
白鳥 というのはやっぱり自分のこととか、その友達とかであれば自分のやりたいこととか、意識も分かっているので例えば、遊びでもマジメにやるし、それでちょっと手痛い思いしてもそれなりに納得はしてくれる。でもこれから入ってきた人とか、劇を観て入ってきた人なんかは『デンジャラス3時』は一回一回テーマ違って、方向性が固まってるわけじゃないんで、ひょっとしたら優秀な役者になるかもしれない若い才能が変な方にいってしまうかもしれない。それでも入ってくるんですよ、たまには、入ってくるんですけど、うれしいけど・・・、どうなんだろ。他のとこも見たほうがいい。育成っていうか、そういうのに関しては知識とか技量があるわけではないし、ここをこうすれば良くなるってアドバイスしたとしても、それは『デンジャラス3時』的な見方であって、それが良いのかどうか疑わしいし、発声ひとつとっても、それがきちんとできてるかどうか。そのために筋トレしているとしても、本当に効果があるのかどうか。主宰が言うのはあれですけど。
柴山 (笑)
白鳥 ちゃんとしてるとは思えないんですよ
貴田 あの、劇団と仲悪いんですか?
(一同大爆笑)
白鳥 その辺のこともあって、もめるんですよ。要するにいろんなこと許してる分、何でもありな分、どっかでやりたいことと、やって駄目なものっていう線引きが本当に難しいので。だから、使命感っていうことに関しては、微妙なとこですね。もちろん、舞台に立たせてあげたい、楽しませてあげたいとは思うけど・・・。
貴田 田邉君はどうですか、制作としての使命感については。
田邉 使命感ですか。「自分が楽しみたい」というのでやってるんで。ただ、やりたいというやつには紹介したいじゃないですか。ただ、その人の好みもありますからね、お魚が好きだという人もいれば、お肉が好きだと言う人もいるんで、無理にお薦めはできないけど、来る人間にはおいしいよって。仲間にいれてやりたいなぁとは思うんですけど。柴山君ともし、生涯友達でいたいのであればきっと劇団には入らなかったと思うんですよ。そんなばかなことはしなかったと思うんですよ(笑)。でも、彼のやることがおもしろいから自分は入ってしまったんです。おもしろい経験をしたい、できるんじゃないかと思った人間が入ればそれでいいんじゃないかなと。それでだめでもちょっと責任はもてませんけど。
貴田 劇団始めたばっかりでいきなり使命感あるのかって言われても、無茶苦茶な話だとは思うし、そんなもの必要ないのかもしれないけど、皆さんの後に続く人たちは確実にみなさんの舞台を見て感動し、刺激を受け、あるいは反発を感じながら演劇を志すわけですから、使命感をもってないにしても、そういう立場になっていきますよね。だかこそ、しっかり「立って」いただければなと、老婆心ながら。皆さんが既存の劇団に対して感じたことの答えというものを、今後の皆さんの公演活動の中に見出せることを期待しています。ところで、弘前市に『サザンコンフォート』という、皆さんと同年代の方が主宰する劇団があって、そこの代表である清水さんが、青森市は演劇活動が非常に活発でうらやましいって話しをしていました。青森市もちょっと賑やかになってきている状況ですから、演劇祭とかってどうかな、可能かなぁ。どう思います?
柴山 以前、白鳥君とその話しをしたことがあって、基本的に俺はそういうことを考えてくれる人がいるっていうことが、すごいうれしかったんですよ。俺、そういうの向いてる人間じゃないから(笑)。作・演出やってて、そんで、彼も言ってたんだけど、自分の劇団を持っちゃうと難しいって話してたよね。
白鳥 うん。結局、主宰ってなっちゃうと、まるでその集団のリーダーで頭領だから、他のとこで動きづらいし、言い方悪いけど上がつぶれると、全てつぶれてしまいそうで、特に『デンジャラス3時』は、ピラミットでいうと頂点の人が動かしてて、下はそれを持ち上げているみたいな、そういう雰囲気もあるんですね。例えば僕が、『弘前劇場』に客演した時も、だからちょっと話しあったんだけど・・・、僕は僕なりのいろんなことをしたいわけですよ。やりたい脚本だってあるし、役者としてもやってみたい、だとしても『デンジャラス3時』の白鳥さんっていうのがつくと、それはできない。もしそれを・・・んー、邪魔なんであれば、俺は主宰はやりたくない。主宰やったって、それで自分がやりたいことが制限されるんだったら意味がない。集団をまとめるっていうか、看板の顔っていうのを引き受けたとしても、自分がやりたいこととか、思い立った事ができないのであればそんな主宰はやりたくない。自分の劇団みたいになっちゃうでしょ。全然動けなくなっちゃう。そこで、まあ、数も少ないからあんまり無いと思うけど、例えば「派閥」なんてあったりしたら、例えば『雪の会』と『支木』が仲悪いとしたら、
柴山 したら(笑)?
貴田 仮に、仮にね(笑)。
白鳥 したら、「雪の会系」なのか、「支木系」なのかみたいな話しなんかに、持ち出されたりすると非常にやっかいなわけですよ。そういう、例えば上の人っていうか、ある意味、先輩方なんですけど、そういうのには巻き込まれたくはない。話しちょっと脱線したんですけど。
貴田 確かに今まで大きい二つの劇団しかなかったから、関係性を考えると何系っていうか、どこの系図っていうか、繋がりていうのはありますよね。私の個人的な印象から言わせてもらえば、『デンジャラス』は「雪の会系」、『夢遊病社』は「支木系」っていう、イメージがありますね。どうしてもね、大きいとこ2つしかなくて、公演やっていくうえで技術的な面とかで支援を繰り返しお願いした場合、そういった繋がりができてくると思うし、逆に煩わしさというものも出てくることがあるかもしれないね。柴山君そういうの感じますか?
柴山 確かに感じますけど、でも、個人レベルでいえば、そんなにいがみ合いは無いんですよ。中野さん(劇団支木・演出)とか、百周年(青森市制百周年記念公演)で一緒になった鹿内さん(劇団雪の会・俳優)とか毎回『健康』の公演とか観に来てたりして「おもしろかった」とか言ってくれて。中野さんとかミミさん(有馬美恵、劇団支木・俳優)とかにしても、そんな変なしがらみみたいなのはない。ただ劇団対劇団になっちゃうといろいろ、やっぱりね、それはまあ、大人でしょうから。
貴田 そこらへんの問題は演劇祭の障害になるのかな?
柴山 いや、だから『支木』と『雪の会』を入れなければいいんじゃないですか。
(一同大爆笑)
貴田 そ、それは・・・それは・・・。
白鳥 以前、旗揚げしてまだ1年くらいの時、『デンジャラス』と『健康』と『雪姫』あたり、要するにしがらみのあんまりないような、動きやすいようなところで、小さい演劇祭をやったらお客の交流があるし、横のつながりができるから是非やってみたかったんだけど、自分の劇団を抱えているし、中立の人が立ったほうが良いんではないかって考えて、ある人に相談した事があったんですが、どっちかっていうと否定的だった。で。僕らサイドが自主的に横につながりをつくって動かないと結局・・・、実際僕ら、公演を1回とか2回とかしかやってなかった頃だし、半分以上・・・半分くらい、未成年というか。だから僕ら的には、結構な大博打のつもりだったんだけども、演劇祭が流れたので単独でやるしかないって話しになって、うちらは、小さな公演を重ねていくようになったんですよ。
船水 (記録として参加の船水千秋、劇団雪姫・俳優)ちょっといいですか? 高橋康子(エゴイスト・代表)さんが高校生だった頃、高校生同志で自主公演をやっていたんですけど、当時はすごい画期的なことだったと私は思ってたんです。最近では中学生でも高校生でも自主公演っていうのを当たり前にやるようになってきたような気がするんですが、その人たちがやっている自主公演っていうのと、今、わたしたちが自分達で劇団とか、個人で活動したりしている人たちと自主公演的なことが出来るのであれば、それが演劇祭につながる、っていうか、同じようなことなんじゃないかな。高校生達が、自主公演を学校の枠を離れてとか、個人レベルでつながって、やりたい人が集まって、やってるじゃないですか。学校単位じゃなくて。それが、結局わたしたちがやりたいっていってる演劇祭と同じような内容というか、気持ち的には、土台としては同じだと思うんですよそれができないっていうのはなぜなんだろう。
貴田 経済的な面かな?
船水 高校の自主公演っていうのは、経済的に学校の支援があるのかな?
貴田 どうなの?
白鳥 ありますよ。
船水 あるんだ。
白鳥 ぼくらの頃はあった。
貴田 一般に劇団同志ということになると制作費用の扱いが難しいような気がする。
柴山 要するに例がないんですよね。やったことがないから。システムがないんですよ。
船水 例えば、高校の自主公演のときプロデューサー的っていうか、誰が先頭に立つっていうか、どこが中心になるかっていった場合にはどういうふうにしてたのかな?
白鳥 僕の先輩達は他校とやったけど、僕らの自主公演はほんとに僕らでしかなかったので、他校とは組まなかったんですよ。声はかけたんですけど、むこうの許可がでなかったので。他校に友人がいて、声をかけたんですけど顧問とか先生によっては、認める人もいれば、認めない人もいるみたいな。その時の状況によって、やれたとき、やれなかったときってあったみたいなんですよ。だから僕の二学年上の先輩はどっかの学校と組んでやれたんですけど、その次の年はストップで・・・、あなた達だけであれば自主公演認めますみたいな形だったので、自分達だけの自主公演みたいな感じだったんですよね。
船水 結局は、どこが責任負うかってことですよね。
白鳥 たぶん、学校同士だから。
船水 そうなんだよね。でもそういうのって結局、劇団が集まって演劇祭をやろうっていう時にもやっぱり同じような気がする。やりたいね、やりたいね、っていう声はどこからでも聞くんだけど、じゃあ、誰がトップに立つんだ、誰が責任を負うのか、それが問題ですよね。
佐々木 (ギャラリーとして側にいた佐々木真理子、劇団雪姫・俳優)ちょっといいですか?実際、八戸とか十和田とか野辺地の方では「上十三演劇祭」っていうのをやってますよね。
貴田 うんうん。
佐々木 これはかなりの劇団数が出ていて少ない時でも6、7団体の参加があるようです。演劇祭に参加するために新たに劇団が旗揚げされることもある。そうゆうイベントを立ち上げる時、必ず必要になるのが、代表=責任者。「上十三演劇祭実行委員会」というのを組織として作っています。その役員を務めているのが『かしの会』の方であったり、事務局長をやっているのが『越後屋』の方で、比較的大きい集団の代表が上に立ってやっている。そうなると例えば青森市で「演劇祭をやろう!」となったとき誰に代表をお願いするのか考えていかなくちゃいけない。あとは、資金面について。「上十三演劇祭」は町からの補助を受けてやっていますよね。じゃあ青森市でやる場合はどうするのか?国や県のシステムには芸術文化の振興・育成!などを目指しているのもあって、少なからず地元の文化団体を支援しようというシステムもある。確かに助成を受けるためには、実績を積んでいかなければならないんだろうから、最初の何年かは本当に大変かもしれない。けれど起動にのってくれば良いほうに向かっていくと思います。
貴田 白鳥君、柴山君とかが考えている演劇祭ってのは、継続的にやるって感じなの?どういう演劇祭のイメージがある?
柴山 打ち上げ花火じゃつまんない。なんかね、こういう言い方もあれなんですけど、青森市の打ち上げ花火ってあまりいい結果にならなかった気がするんですよ。例えばプロデューサーって絶対必要になってくると思うんですけど、プロデューサーって一番きつい役職じゃないですか。見返りってわけじゃないけど、おもしろいことがやれること自体が見返りなわけですよね。で、楽しんでもらえればいいんですけど、それが結局上手くいっていない、打ち上げ花火が、悪い結果だけを残していってるっていう、悪い歴史ができちゃってるんじゃないかな。
貴田 演劇祭は必要?
柴山 ま、必要・・・。他の形でね、いろいろおもしろく盛り上がるかたちがあれば、それはそれでいいと思うんですけど。ま、演劇祭っていうのが、とりあえず一番おもしろそう。ようするに青森市にどういう劇団があるか知らないわけですよね。一般の方々を含めて。
貴田 演劇やってても知らない人もいる(笑)。
柴山 ね(笑)。で、それを「紹介」じゃないけど、見られる場があるのはいいことだと思う。
貴田 柴山君、立ち上げたら?
柴山 いやあ・・・・。そこが難しいとこなんですけど(笑)。偉そうな言い方ですけど、「プロデューサー」と「クリエーター」って違うと思うんですね、全然。もちろんね、もしプロデューサーがいなくても、それぞれの劇団が上手く解決していければそれはそれでいいんですけど。ただ、そういう活動に喜びを見出せる人がいない。プロデューサーっていうのもいろいろおもしろいと思うんですけど。プロデューサーってかたちで、そうやってニュートラルに動けてくれる人が・・・。
貴田 そういうのやるとしたら『デンジャラス』も、十分参加可能なの?
白鳥 んー、公演する場所がないから、そういうとこに飢えてるところはある。
貴田 いつもやっていた、「スペース21」ってなくなっちゃったの?
白鳥 みたい。
貴田 「もう貸さない」とかじゃなくて、無くなっちゃった?
白鳥 そうです。日専連が撤退してしまって「フクシスポーツビル」に戻ったんですよ。で、今フクシスポーツの管理下で、商品の倉庫になりました。
全員
貴田 「倉庫」。
白鳥 季節ものの在庫置場になってるんですよ。で、結局商品の在庫ってことは、そこに関係者以外の出入りっていうのはできないわけで。中はそんなに取り壊したわけでもなくて、ある程度もったいないような設備もあったりするんですけど、とりあえずは「倉庫」。将来的にはどっかテナントが入るかもしれないとは言いつつも、現状未定。
貴田 「トップハット」(中三デパート・フリースペース)は?誰か最近交渉した?
柴山 ちょくちょく行ったんですけど・・・。
田邉 うん・・・。
貴田 貸してくれなかったの?
田邉 だめですね。
貴田 噂どおり完全にダメなんだ。
白鳥 2年前の交渉の時に、もう貸さないって。
柴山 芝居には一切貸さない、と。
白鳥 芸術とか、展示とかよりも商品の販売促進のほうに使うということです。会社の方針らしいですね。あの空間自体がもう、今は売り場の一部っていうことになってしまった。だから昔はちょっとしたコンサートとかも企画にはあったらしいんですけど、今は売り場面積だって言われました。
貴田 だからといって、このまま場所ないからってわけにいかないよね、「だびよん」とかはどうなの?
白鳥 何回かやらせてもらってるんで将来的にどうしてもなければ、っていえば失礼ですけど、ただサイズがどうしても・・・。「スペース21」で公演をするということを前提にある程度、投資してきたので・・・。
貴田 と、いうと?
白鳥 仕込みの経費、時間をできるだけ抑えるために、あそこに合わせた寸法のパネル、アシ、パンチにしろ、ようはABCD合わせたら、そこの場所にはまって、何時間で立てこめるか、何時間で配線が終わるかっていうのを考えながら様々な投資をしてきたんです。結局そうなってくるじゃないですか。となると、そのパネルはそこで一番効力を発揮するけど、他に持っていくにはあまり意味がないんですよ。パンチだって、すごく半端に切れたりとかしてるから(笑)。
貴田 青森市の殿堂「文化ホール」は?
白鳥 一回やったんですけど、やっぱり僕らには予算の問題が結構大きかった。やりたいことがいっぱいあって、照明とかもやりいことがあって、一回わがまま言ってホールでやらせてもらったんですけど、やっぱり予算と、まあ、どこの劇団もたぶ同じ事考えると思うんですけど、入場料と客の関係っていうか、バランスが良くない。
貴田 公共の場としては料金高いよね。
白鳥 しかも値上げしましたよね(笑)。気軽に何かしようとか、表現しようとしても、簡単に手が届かない。ある程度固めて、それなりの覚悟があって、予算も段取りたてて、企画一年くらい前から決めて、これくらいの広さあるから脚本もこうしなきゃだめだとか、そんなの考えていくとなかなかできない。やりたい、やりやすい小屋がないのか、あるいは僕らが探せないだけなのか分からないんですけど、ぼくらはそういう場所が得られていないんです。
船水 「サザンコンフォート」の清水くんと話したとき、青森市でやれるスペースがないかってこと聞かれたんですよ。『雪姫』の活動の場も「3分の1」から「クォーター」になっていくと思うんですけど、やれる場所っていうのがライブハウスとか、公共の施設とかしかないじゃないですか。文化的には弘前のほうが都会っていうイメージが私にはあって、そっちのほうがいいんじゃないかって言ったら、あっちも「ない」って話しで・・・。彼がやりたいスペースっていうのは、場所があればいいっていうんじゃなくて、芝居をやるうえでの環境、雰囲気にこだわりたいってことを言ってたんですよ。ま、そういう意味で市内にホールはあるんだけど、演劇をやるうえで、魅力的な場所となると・・・。
貴田 これからは、いくつか出来てくるんじゃないかなぁ。
佐々木 そうですね駅前に、それこそ小さい劇団でもできるような小ホールと、それに付属しての稽古場と、その他の付属施設を建設するというお話がありましたよね。それが今建てている段階で、どう変更しているかはわからないんですけど(笑)
貴田 他には?
佐々木 あとは「芸術パーク」。まだ構想段階だから、なんともいえないんですけど是非、劇場を作って欲しいですね。
貴田 どっちにしても、ここ1、2年は会場不足の状態が続いていくということか・・・。
柴山 仙台でもね、一時期新聞に載ったりして問題になったんですよ。公共施設の貸出率が恐ろしく減ってるって。田舎の方にホール建てるんですけど、困るわけじゃないですか、結局やることがないし、年間予定はいっつも何もないっていう状況があるわけで。すっげーくさるほど言われてたことですけど、ホール1個建てるんなら、ライブハウス5個建ててほしい(笑)そのお金で。ライブハウスで芝居したとして、失敗だとするじゃないですか。それ、「失敗」ですよね。でも同じ芝居を文化ホールでやったとするじゃないですか。「大失敗」になるんですよ。(笑)
(一同大爆笑)
柴山 気軽に公演なんてできないんですよ。それこそ百人とか千人とかなんて、どっかから、劇団呼んできてもそんなに集まるわけじゃないのに。やっぱりそれだけのキャパを埋められる、もしくはその予算が出るっていうのは無理なんです。で、「多目的ホール」ってよくありますけど、「多目的ホール」って目的がないってことと一緒じゃないですか(笑)。何に対して使っていいのかっていうのがあるわけじゃない。それならそれで「ライブハウス」って決めてもらったほうが逆に使い勝手があるって気がするんですね。ま、「芝居小屋」っていうのが出来れば一番いいんでしょうけど。小屋の条件っていうのもありますよね。立地条件的には「トップハット」ってほんと良かったと思うんですよね。去年「半神」やるときにいろいろまわったんですよ。「ラビナホール」とかも。
貴田 「ラビナホール」はどうなの?
柴山 基本的にお歌を歌うとこなんですね、ミラーボールがあったりして、で、やっぱしタッパ低いんですよ。ああいうのって多いじゃないですか、デパートの一番上にホールがあるっていう。それこそパルコであったりとか。仙台にも「○○○○ホール」ってあるんですけど、そこの
使用率が一番高いんですよ。街中にあって、デパートがあって、一番上にちっちゃいホールがある、もちろん搬入とか大変だし、エレベーター使わなきゃいけないし、苦労ってもちろんあるんですけど、でも、そういう条件って大事だし、そういうのがあれば、そこで常に芝居をやってるって状況、もしくはなんかやってるって状況がつくれるわけじゃないですか。やっぱり、そういうことになってこそ建てられてよかったね、っていうふうになるわけじゃないですか。なにも隣の町より客数の大きいホール建てるだけがあれじゃない(笑)。新しい劇場を建てる時、仙台の演劇人が、一言でいいから演劇やってる人の意見を頼むから聞いて欲しい(笑)、言いたいことは山ほどあるけど、一言でいいから聞いてくれないかっていうのはありましたね(笑)。
貴田 田邉くんはどんな劇場が好き?
田邉 そうですね、やっぱり前の「3分の1」ですか、ああいう小さいホールって実はけっこう好きですね。
貴田 客席数は?
田邉 百か二百くらいがいいんじゃないんですかね。あんまり多すぎてもなんか、んん、入れられないっていうのが、制作としてはそれは失格なんでしょうけど(笑)。地元もやっぱりでっかいホールしかないんですよね。で、でっかいホールで、ちゃんと整ってるからいいじゃないかってとこで、終わっちゃうんですよ。でも使い方も知らないし、どうやりゃいいんだってことで終わってしまう。やっぱ、あんま使用率もよくないんですよ、プロの劇団とかは使うんですけど。
貴田 佐藤君は?
佐藤 俺は・・・「デネガ」(弘前市)みたいなところが好きです。弘前劇場を見たとき、なんにもないところにあれだけの空間をつくる、また客席もあれだけ入れる空間で、ほんとに舞台と客席がいっしょになっているのを味わえた。そういうのがいいんで。だから「3分の1」とか、ああいうところがいい。
柴山 それと、「客席」が動かせるか、動かせないかって、すごいでかい問題だと思うんですよね。椅子が固定か、固定じゃないかってのはかなり。うちは○○ホールの椅子、無理やりはずしたよな。
田邉 うん(笑)。
柴山 あと「時間」。
貴田 使用できる時間ってこと?
田邉 時間の問題ってあると思うんですよ。学生とかだったら4時とか5時とかで学校終わって観に行けるけど、働いている人って6時まで働いている人もいれば、7時まで働いてる人もいるじゃないですか。遅くまで仕事している人は、演劇を見るなっていってるようなものじゃないですか「この時間で終わり」って。それって、よくないと思うんですよ。
貴田 「福祉プラザ」っていう比較的設備のととのった劇場があるけど、閉館時間が早いっていう話だよね。
柴山 午後9時完全撤退。
貴田 『デンジャラス』が一時狙っていたっていう噂を聞いたけど?
白鳥 建てて何ヶ月か経ったあと行ってみたんですけど、当時係りの人っていなかったんですよ。だから技術的なこと聞いてもわかんないし。場所は貸すからあとはあんたがたで事故がないようにやってくれって。で、あんたがたは免許みたいなものがあるのか? いや、ないです。じゃ、業者雇ってっていう・・・・そんなたいしたことやるわけじゃないし、基本的なことで、ちょっといじって色入れたいだけだとしても業者呼ばなきゃならない。それは「ラビナ」でも言われたんですけど。
貴田 じゃ、演劇はどこでやりゃいいの?
柴山 要するに、やってほしくないんじゃないんですか(笑)ホールとしては。
船水 公共の施設っていうのはすごく制約が、貸す側の責任っていうものがあるわけで、規則っていうのもはずせないわけで、雇われてる側としては仕方ないのかなとは思ってしまうけど、理解してくれるレベルのところがあまりにも少ないよね。それと、前例がないから怖いっていうのも、貸す側にはあると思う。
柴山 でしょうね
船水 前例を作る側のほうでまずちゃんと、大成功までいかなくても、まあある程度の目途がたって、これだけのことができるんですっていうのを提示できれば次につながりを持つこともできるし、逆にそこで、「ええっ・・・」っていうのをやってしまわれると、他のところが続いていけなくなるっていうのも、お互いにあるよね。
貴田 危険性が十分にあるね(笑)。
柴山 去年、文化会館の会議室でやったじゃないですか。それで・・・あれ、どうだったのかな、あっち側としては
田邉 ああ、あっち側としては、大ホールを、ちゃんと設備の整っているところがあるんだから、そこを使ってほしいっていう。あんな大ホールに千人・・・・。
柴山 いや、終わったあとの感想として。
田邉 終わったあとの感想?
柴山 うん。
田邉 どうなんだろう。
柴山 結構よかったんじゃなかったけ?
田邉 ただ撤収のときに、早く早く早く、出てって、出てって!って感じで終わって、こっちも機嫌悪くしてそのまま・・・。
貴田 印象悪くして、もう演劇には使わせてくれないんじゃないの(笑)?
柴山 だって上の会議室借りるために、下の会議室も借りたんですよぉ。60万円出して!
一同 ええ?!
柴山 だって、上でどたどたすると下に響くから、下で会議とか入った場合は上に行って、そこで公演止めてもらうからとか言って。そしたら下も借りるしかないじゃないですか。そこは学校から予算無理やりに引っ張って、下の会議室を無駄に真っ暗な状態で2日間借りてそれだけで予算半分・・・
(一同凍りつく)
船水 当日は会館の人っていうか、関係者の人は見に来てくれたんですか?
田邉 途中見に来て、こう「傷ついてない?」とか声かけてくるんですけど、心配なのはわかるんですけど、邪魔じゃないっすか。こっちは分単位で競ってるわけじゃないですか、仕込みとか撤収とか。それなのにこう口出しされるともう、正直、来ないで、本番だけ見に来てくれっていう
柴山 やっぱ学生だからっていうのはあると思うですけどね、あんまり信用されてなかったっていう。一応こっちもちゃんと考えて、やってたんですけど、あっちの規定のやり方があるらしくて、それで。まあ、いきなり消防法無視して・・・。
(一同、再び凍りつく)
柴山 あれであんま信用されなかったんだよね。
田邉 うん。
柴山 消防法大きいっす。
田邉 うん。
白鳥 「スペース21」の時もだいぶ苦労したんですよね。あそこも前例がないっていう話をさんざんされて。演劇やれる場所って、どこがあるんだろう。
船水 例えば、どっかと共同出資して、倉庫とかの空間を借りるとか。
白鳥 倉庫は、調べに走ってくれたんですよね、制作の方で。なんだけど、結局個人でもってる倉庫っていうのは、ほんとに「倉庫」だったり、空きの倉庫はまずない。あとは青森市の港あたりっていうか、海辺あたりにあるのは県がらみ。県ってなるとますます許可とるのが困難になる。例えば何をするのか、なんでここなのか、ホールがあるじゃないか、話は振り出しに戻る。倉庫なんかは探したら、まだまだ見つけきれてないとことかあるんでしょうけど、所詮僕らレベルというか。もしかしたらもっと上で強いコネとかもってる人がいたら持っていかれちゃう。そういうところからの情報は違うわけですよ。僕らのところでしか得られない情報じゃなくて、もっと、ひょっとしたら上のほうの人は、あそこはこういうのがあるんだって知ってるかもしれないわけでしょ。
船水 そういうことで、自分の劇団だけじゃなくて、自分と同年代とか、一緒にやってて、賛同してくれそうな人とかに声をかけて、一緒に探すっていうか、やりましょうみたいなことは特別考えてない?
白鳥 できればしたい・・・けど最近はなんていうのかな、知り合いが増えてよかったですけど(笑)当時は知り合いがいなくて、例えば、そんな頼むほどには知らない、公演ちょっと見に行ったくらいで情報交換したわけでもなく、実情がどうかとか正直やっぱり微妙な、なにかしらの壁があるわけじゃないですけど例えば、制作とかでも探しはするけど、自分のある程度知ってる情報・コネの範囲内での相談で、他の劇団の、超ベテランの方、とまではいってない。
佐藤 協力っておっしゃったんですけど、大所帯のほうが貸してくれる可能性が高いんですか?
船水 んー、それより、信用しかないでしょう。もしくは些細な事は気にしないで、やることに賛同してくれるようなオープンな、さっき言ってたけど、プロデューサーのような人がいれば、そういう人だったらプロデューサーができるんだよね。どっちでもいいんだけど、最終的にはそういうのにこう間口を広げてくれるっていうか、場所とか、資金を提供するから好きなことやんなさいっていう人が。
柴山 演劇祭のこととか、稽古場とか、劇団の運営に関してとかも、後から言っても後の祭りなんですけど、結局それも全部やったもん勝ちみたいなとこがあって、自分達のとこがみつかったからいいや、みたいな感じになって、体系化されていない。こういう時にはこういうやり方があるよ、もしくはこういう探し方もあるよっていうのがシステム化されていれば。もしくは悪い前例で、悪影響があったりとかあるわけですねよ。そういうところで、ま、自分が探すときとかに、ちゃんとした前例をつくっとかなきゃ。
貴田 なんか悪いことしたの
柴山 いや、してないっすけど(笑)
柴山 なんかね、後の人にもそういうふうにしていかないと、なんかって気がするんですよ、ね
貴田 公的援助を受けるのだってそうだよね。
柴山 そうなんですよ。あの、全然ちょっと話しズレるんですけど、映画の話で、映画が日本で全盛だったときに撮影許可とかとるときに日本の映画界って情熱で押したんですよね。映画撮りたいからいいじゃないかって、じゃ、しょうがないな、いま映画おもしろいしっていって、そうなっていろいろ許してもらったりコネとかでどんどんどんどんやってもらったりしてたんですけど、アメリカとかだと、最初っからお金なんですよね。警察とかにその場をアレするお金を払って、それが市の財政になってたりとか、そういうことで協力する。お金さえもらえば協力するよっていうかたちで。で結局映画がダメになってきちゃって、そしたらダメになるわけじゃないでか、急に冷たくなるわけじゃないですか。そうなってくると、いいや、わかんねえうちに撮っちまえってかたちになって、ゲリラ的に朝勝手に撮っちゃって、見つかったら逃げるとか、そういうかたちになってきちゃって結局今度悪い例が増えるんですよね。それでなんか未だにアメリカはそのシステムが出来てるらしくて、だから警察とかが、警察を批判するような映画撮っても、警察は協力したり、それはお金さえもらえばキチンとやるよっていうかたちで。日本では考えられないことで、要するにきちんとシステムを作ってしまったほうがいい。最初から金の話とかすると、いやがられると日本人って思うんですけど、最初にそれをしとかないとかえって自分らはそれでいいのかもしれないけど、後につながっていかない。金っていう、ま、金だけじゃないですけど、きちんと筋を通して、システムとして成立させていかないと後の人につながんないような気がするんですね。うちらなんか学生劇団だから今でもそうですけど、ノリでやっちゃって、やったもん勝ちって見られると思うんですよ、どうしても。そういうホールの人とか、いろんな面で。そういうとこキッチリやっておけば、学生でも信用してもらえるし、やってくれたから大丈夫だっていう前例をつくっていくのが大事かなって。これからいろいろ動くことになるんでしょうけど、それはキチンと考えておかないと後々自分達にも不利になるような気がするんですよ、単純に。
貴田 『雪姫』は幸い、県からお金もらって公演うてたんだけども、そこいらへんのことにしてもお金のもらい方っていうか、よくわかんないとこあるよね。どうすれば公的支援もらえるんだろうって。だからこそ、こっちから働き掛けていかなきゃならないし、常に劇団の連絡先を明確にしておく事も必要ですよね。突然美味しい話が舞い込んでくる可能性だってあるんだから。今回『雪姫』がもらった「青森県舞台芸術公演事業」の関係書類も、事務所の住所をしっかり県に明示している県内の各団体に届いているはずだし、〆切までに記入して申請すれば、助成の対象として可能性が出てくる。ただ、継続的に公演をして、しっかりした計画というものが必要になるらしいけどね。お金もらえるから、公演やるっていうことじゃだめらしいし。あとは、アピール度の問題かな。とにかく公演する時は、各マスコミに連絡しておくこと。あとは、『弘前劇場』のホームページに公的助成に関してのリンクがあるから、そこもチェックしとくといいかな。『弘前劇場』が他と違うのは、助成の受け方を内緒にしないということかな(笑)。今後、公演活動を続けるうえでも、資金的な事、会場の問題、いろいろ課題があるけど、一番重要なことは、継続していくことだと思う。私たちがこれから得ていく経験、実績は自分たちだけのものじゃないと私は思うし、後に続く世代のためにもしっかり立ち続けていきましょう。最後に何か言い残したことある?
柴山 高校の先生方、郵送した公演案内は、しっかり生徒に伝えてください!(一同爆笑)

《 後 記 》 日頃は生意気が売りの彼らも、何かと悩みを抱えながら演劇道を歩んでいるらしい。止めるのも自由、続けるのも自由だけど、しばらくはお節介ついでに、彼らの立ち方に注目していきたいと思う。


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◆演劇評
 劇団雪姫公演「寿歌」
 「劇団がたくさんあるのはやりたいことが違うからなんだよな。きっと」
 安達良春
 いったい芝居を観に来る人達は何を期待して来るのだろうか? テレビじゃ番組たくさんやってるし、ビデオも本も気が遠くなるぐらいの数がある。時間をつくって足を運び、お金を払って観て、面白さをみつけられなかったら目もあてられない。でも舞台を観に来る人は居る。楽しんで帰る人もいれば、憤慨して帰る人もいる。怖いよなぁ、ものを作って人に見せるということは。でもどっかで踏ん切りをつけないと、いつまでたっても何もできやしない。まてよ、じゃぁ自分は何を期待して芝居を観に行くんだ? 巧いものをを観たいわけじゃない。努力の成果を観たいわけじゃない。どんな人が、どんなことを、今考えているのか観たいんだな、俺は。もしかしたら自分は純粋に作品を楽しんでいないのかもしれない。そんなことを繰返し繰返し考えながら青森に向かった。
 三内丸山到着。遺跡内を少し散策。六本柱の大きさに驚く。そして会場へ。会場に入ってまず、パイプ椅子とライトが目に入ってしまい、気持ちがひいてしまった。わかってます。パイプ椅子もライトも必要なのは重々承知しているつもり。遺跡である会場には手を加えられない。暗くて役者が見えなければどうにもならない。わかっているのに、それでもひいてしまった。三内丸山遺跡で、野外で(半野外というべきでしょうか)、見学者も通る。そんな場所で公演をする。周りには、復元された物とはいえ、古代人の生活の跡がある。そんな場所に作られたウソの世界を持ってくる(雪姫さんの舞台がウソの世界だと言ってる訳でなく、基本的に私は芝居自体をウソの世界だと思っていますので…。語弊があったらスイマセン)。私にとってはかなりそそられるシチュエーションだった。どんな劇団雪姫の意志が感じらるのか。まずそこを楽しみにしていた自分にとっては、あまりにも無防備に見えた。そんな中、舞台は始まった。北村想の脚本。私がたどりついたのは、「この公演は、劇団雪姫の公演場所が三内丸山遺跡だっただけで、ここで公演をするために劇団雪姫がつくった舞台ではないのだ」ということ。気を取り直して観る。
 佐々木さん。コケティッシュ。才能プラス努力で向かうところ敵なし。柴山さん。間と、脱力具合が面白い。大きい体で効果大。鹿内さん。男性役ということで最初少しとまどったが、無理なく、無駄なく、直球勝負。今回一番私好みの雰囲気アリ。物語としては女性のキャストを持ってくるのは「?」という気がしたが、舞台の雰囲気としては面白くなったと思います。ただ別れのシーンで佐々木さんとのからみの味が薄くなってしまったのが残念。三人を観ていると、舞台に立つ者の一人として、爪の垢でも煎じて飲みたい気がします。ホントに。などと考えているうちに終演。
 今回に限らず、これまで何回か劇団雪姫の公演を見て思うことは、作品の後ろに演出の影が感じられないということ。それを狙っているのかもしれませんが、その為に、毎回綺麗で、質の高い舞台をつくっているにも関わらず、私には印象が薄い。私にとって芝居の公演を行うという事はあくまでも表現手段のひとつであって目的ではない。ところが、劇団雪姫はその名の通り劇団ですので、芝居の公演をすることが目的です(よね?)。芝居の公演を目的とする事は悪いことではありませんが、ここで大きく考え方に違いがでてくる。私はもっともっと演出の考えている事を、表現したかった事を、感じたい。今回の「寿歌」で言うなら、戦争、旅役者、神父(宗教)、蛍(自然)などいろいろなポイントがありましたが、それに対して、演出・劇団が思うこと、やってみたいことをもっと強く舞台上に打ち出した芝居が観たい。その為には本を脚色してもいいと思っています(もししていたらスイマセン。本を読んだことがないもので)。例えば、戦争にポイントをおくならば、戦争のイメージシーンを実際にこれでもか、これでもかというほど挟み込むとか(あくまで例えです。あまりいじると、せっかく選んだ物語の雰囲気をぶち壊してしまいますが、表現したいこと、やりたいことがあればOKだと思っています)。
 ごく少数派の意見なのでしょうが、いつか劇団雪姫ならでは、これぞ貴田演出と言える芝居(もしかして現在がそうなのでしょうか?)を観たいと思っています。それがたとえ演出のわがままと言われようとも昔の劇団雪姫の方が良かったと言われる結果になっても。恐らく劇団雪姫とは逆のベクトルへとむかっている人間の劇評でしたが、さて如何なものでしょう。
 こんな私が好きな劇団をひとつ挙げるとしたら「モレキュラーシアター」です(彼らはお芝居ではなく演劇という言葉をつかいますが)。地元での公演は少ないのですが「舞台とはこういうこともアリだ」と私の目から鱗を落としてくれた劇団です。賛否まっぷたつでしょうが、舞台に関わる者なら観てソンはありません。
 ( 創造集団パノラマ屋・俳優兼演出 )

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◆演劇評
 演劇団健康公演ACT5「カラー・アズ・ビギニング 〜夜明け前〜」
 佐々木真理子
 蝦名奈央、作・演出のこの作品は、現代社会に生きる等身大の女性の心情を、童話のように、細やかに、生き生きと、喜劇性たっぷりに創られた、非常にカラフルで新鮮な舞台だった。
 話は天才科学者『ミヅキ』(蝦名奈央)が丸い明かりの中にぽつんと座り、薬を飲もうとする場面から始まる。彼女は自殺しようとしているのか・・。
 ミズキは、いつも一番になりたがっていた。しかし、そこには決して超える事が出来ない親友、王様の娘『ハルカ』(近藤直子)がいた。
 ハルカは生まれながらにして、地位と美貌、誰からも愛される人間性を持っていた。ミズキは次第にそれを羨むようになり、いつしかその嫉妬心は増幅し、心の抑制が効かなくなってしまう。そして罪悪感を抱きつつ、国を消滅させるべく兵器を作り、行方をくらましてしまうのだった。
 親友を信じ、決して疑わなかったハルカと知的で冷静沈着な側近『ヒカル』(対馬愛)、そしてミズキを探すため、ヒカルに雇われた女殺し屋? の2人『チヒロ』(工藤あさ子)と『バンリ』(西脇亜由美)。彼女達は、ミズキを追って深い森の中へと入っていく。そこから、舞台は様々な場面へと展開していく。
 ミヅキを探し出したハルカは彼女に真実を問いただし、二人は互いを傷つけ合うことになってしまう。
 いつしか舞台は佳境に入り、殺し屋は『ミズキ』の心となって存在していたことが明らかとなる。そして、まるでその心の儚さを諭すように自ら命を絶つ…。
 私は、何もない舞台を五人の役者と一瞬の暗転によって次々と変化させていくその状況に興奮していた。
 多くの芝居は、暗転を場面転換に便利なものとして、当然のように使っている。
 そのデリカシーの無い、機械的な暗転を見たとき、私は舞台の中の世界から一瞬にして現実に引き戻されてしまう。その瞬間がとても嫌だった。けれど、この舞台は違っていた。
 一瞬の暗転が、まるで映像の場面切替のように効果的に使われ、それに対する五人の絶妙な演技が、決して見ているものの気を反らすことのない、逆にそれによって、より芝居の世界へと引きずり込まれる見事なものだった。そして、これらを演じる五人の役者はとても魅力的で、それぞれに忘れられない個性が残るものだった。
 私は、この『カラー・アズ・ビギニング』に、現代に生きる女性への、生き方の手がかりがあるような気がした。
 それほど極端でなくとも、人と人との心が通じにくくなっている今、日常生活の中で、様々なコンプレックスを抱えながら、表面では笑って過ごし、心の中に息苦しさを抱えている。相手に言いたいことがあっても口をつぐみ、誤解があってもそれを解きほぐそうとしない。心の中に不満や苛立ちがつのり、いつしか憎しみだけが一人歩きするようになる。
 そんな時代の心の解きほぐし方が隠されている、暖かい色の舞台だった。
 ( 劇団雪姫・俳優 )

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◆演劇評
 演劇団健康公演ACT5「カラー・アズ・ビギニング 〜夜明け前〜」
 「健康」の「出港」
 柴山大樹
11月14日、午後2時20分。
これが、現在この劇評を書いているリアルタイムの時間軸である。
そして、今回私が劇評を書く演劇団健康ACT5、作・演出・蝦名奈央による「カラー・アズ・ビギニング 〜夜明け前〜」が行われたのは、9月23日である。
ちなみにこの劇評が依頼されたのは、当たり前だがACT5の公演が行われるはるか前のことである。では、なぜに私はこの2ヶ月の間、劇評を書こうとしなかったのか?
それが今回の劇評のポイントである。決して、書くのが遅れた言い訳ではない。ほかにも理由があるが、それをここに書いている暇はない。締め切りは今日の5時だ。

演劇団健康ACT5「カラー・アズ・ビギニング 〜夜明け前〜」は、9月23、24日に青森演劇鑑賞協会事務所にて上演された。ちなみにACTというのは、演劇団健康の本公演とは別に、劇団員たちがやりたいことをやるための番外公演シリーズである。
今回は、演劇団健康現代表の蝦名奈央作・
演出のもと、健康からは近藤直子、西脇亜由美、夢遊病社からは対馬愛、さらに友情出演として工藤あさ子、とバラエティに富んだ役者陣が集まっている。

ここで一つ、お断りしておきたいことがある。ご存じの通り、私は現在活動真っ最中の劇作・演出家(自分で言う)である。だから、どうしてもその目を捨て切ることは出来ない。そんな人間が、細かいことをあれこれと評していくのは、その公演の劇作・演出家に対して失礼であると思う。そのために、私は2ヶ月の期間を置いた。それは、この芝居の「印象」を確かめるためである。私はその「印象」を手掛かりに今回の劇評を進めて行こうと思っている。だから、言い訳じゃないってば。

「新生」演劇団健康の芝居は、前回6月の定期公演「海へと」に続いて2本目となる。
作・演出・出演をこなしている蝦名奈央にとっても、これが2本目の芝居となる。
この2本を通しての劇作家としての蝦名奈央の「印象」は、いい意味でも悪い意味でも、「女」である、ということだ。前回公演でも、今回の公演でも、私にとって最も印象に残っているのは、主にどちらも劇中盤で語られる役者・蝦名奈央自身による、「告白」のシークエンスである。客観性の微塵もないその「告白」の叫びは、それが本当に言いたいことだからなのか、それともその叫びを背負える役者がいないせいなのか、それとも劇作家としてみずから責任を取るせいなのかはわからないが、常に役者・蝦名奈央本人の口から語られる。そして私には、残念ながらそれらのシークエンスは、これらの芝居にとっていい「印象」を与えているとは思えないのだ。

6月公演を見たときに最も感じたのは、「劇としてまとめようとしすぎている」というものだった。そして今回も、残念ながらそれ以上のものを感じることはできなかった。
演劇を構成する要素の一つとして、「速度」というものがある。
これは、単純な劇のテンポ等のことではなく、その集団、その芝居が持ち合わせている全体的な「速度」のことだ。勢いのある集団というのは、この「速度」を必ず持ち合わせている。速い遅いは問題ではない。「速度」があるかどうか、だ。
私が見る限り、演劇団健康という劇団は十分に「速度」を持った集団である、という気がする。が、前回、今回共に自らその速度を停滞させてしまう時がある。非常にもったいない。具体的に言えば、テーマと芝居が分離している。数多いギャグやその他のシーンではあれほど軽やかに疾走していた役者たちが、テーマを語り出すと目に見えて失速してしまう・・。だから、最終的な印象としては、魅力的過ぎるほどに楽しく、生き生きとしていた数々の役者やシーンの印象を、テーマの「叫び」のシーンの「印象」が覆い尽くしてしまう、ということになるのだ。そして残念ながら、その「叫び」は、他のシーンを犠牲にするほど説得力があって、魅力的である、とは言い難い。失速するぐらいなら、テーマなぞ捨ててしまえばいい。テーマなんてものは、それに向かって走りだすというよりも、やってるうちに勝手に浮かんでくるものである。「速度」についてこれないテーマを切り離すだけの勇気が、新しい何かを創ると私は信じている。

ここで、役者陣の「印象」に目を移して見る。
役者としての「蝦名奈央」は、一定して見事な安定感を見せる。ただ、その安定感が劇作・演出もこなしていることによる「縛り」によるものであるならば、問題ではある。現在、蝦名の劇作の世界は、役者・蝦名奈央の世界に寄るところが大きい。それはそれでいいのだが、逆に言えばその世界は役者・蝦名の世界のキャパシティを超えられないという問題点もある。自ら作・演出をこなしつつ役者としてのキャパを広げるというのは、あの野田秀樹でさえできなかった作業だ。安定すにはまだ早いし、惜しい。
近藤直子の成長ぶりには目を見張る。素晴らしすぎるほどの躍動感は、確実にこの芝居の「速度」を創っている。空間の大小の違いはあるにせよ、「とにかく可愛い」だけが売りだった前回とは(また、それでよかったのだが)雲泥の差だ。勿論、いいカタチで近藤のフォローに(役者として)まわっていた蝦名の存在に寄るところがあるのも、忘れてはならないが。
工藤あさ子は初見だが、その「開き直り」とでも呼ぶべき演技は特筆すべきものだし、対馬愛も、外の作品では見せないような演技をみせた。こんなに「速度」を維持できる人だったとは、代表でもある私もしらなかった。ちくしょう。
ここまでみてきても解るように、蝦名演出は(番外公演ということもあるのだろうが)役者に対しては、いい意味での開放感を与えている。役者陣は実に生き生きと芝居を演じており、それはこの演出家ならではのものなのかもしれない。ただ、贅沢な私としてはもう一つ上の段階も望んでしまう。そして、それこそが今後の演劇団健康のキーポイントであると思うのだ。

西脇亜由美。今回、前回ともに出演している女優である。
前回、この「舞台」に掲載されていた五十嵐さんの「海へと」の劇評では、「妙に浮いた存在感」と評価された彼女だが、私も同感である。ハッキリ言えば、決して芝居は上手くない。いや、むしろ下手だ。だが、なんともいえない存在感は、彼女特有のものがある。
なにも演劇団健康に限ったことではなく、学生劇団の演技が技術的には下手の部類に入るのは、しょうがないことだ。ただ、観客は技術披露会を見に来ているわけではない。音楽の先生がミリオンセラーの歌手になれないのと一緒で、技術では表現できない何かを観客は求めている。そして、学生劇団(に限ったことではないが)の一番の武器というのは、そこである。そして最もそれを発見しやすい位置にいるのは、毎日といっていいほど一緒にいることが多い学生たちなのだ。今回の芝居においての西脇は、その魅力を存分に発揮できる状況にあったとは思えない。せっかくの当て書きでもあるのだから、こういった部分を生かしていくことが健康にとってのこれからの重要なポイントとなる気がする。

では、最後に全体的な「印象」である。これは何より先に公演終了直後にわたしが感じたことだ。
今青森市内にこれほど生き生きと精力的に、そして何より楽しくさせてくれる劇団があるだろうか。口数ばかりの御老巧たちが油断している間に健康には、彼らの「速度」でこの荒波を駆け抜けていってほしい。軽やかに楽しく、そのステキな笑顔で。
 ( 劇団夢遊病社・代表 )

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